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無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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鬼は朧夜に散り、死装束は朱に染まり(弐)
2014-12-21-Sun  CATEGORY: 小説:鬼は朧夜に散り、死装束は朱に染まり
劇中は秋設定です。
明言自体はしてないですが、
秋を示す単語がチラホラ出てます。

某、魚とか。



鬼は朧夜に散り、死装束は朱に染まり

  弐


「せりゃあああッ!!」
上坂吐夢の朝は大抵、妹のダイビング・ボディ・ブレスから始まる。

何故、大抵かというと、派生としてダイビング・エルボー・ドロップだったり、ダイビング・ニー・ドロップだったりするからだ。
もちろん妹君も手加減をしているし、彼女自身も小柄で軽いので、これまで怪我を負うようなことはなかったが、熟睡しているところにプロレス技を仕掛けられるのは決して気分のいいものではなかった。

そんな目覚め方が嫌ならば、普通に目覚まし時計で起きればいいと思うだろうが、そうは問屋が卸さない。というか義妹様が許さない。目覚まし時計を購入しても、次の日には壊されてしまうのだ。携帯電話のアラームは設定しても夜中のうちに解除される(何度もやっていたら携帯電話そのものを一度壊された)。仕舞いには、私なんかお兄ちゃんに必要ないのね~と泣き喚く始末だった。
結果として、吐夢は毎朝、妹のプロレス技で起きなければいけなかった。

だが、血の繋がっていない可愛い義妹に起こしてもらえるのだから、ダイビング・ボディ・プレスくらいは目を瞑るべきである。
「ぐ、ぐァ……ああぁあァ……」
「おはよう、お兄ちゃん♪」
「…………お、おはよう」

吐夢は身体の痛みを堪えて、妹の来夢に笑顔で答えた。
屈託のない来夢の笑顔を見ると、この刺激的な起こし方も許していいかな、と思ってしまうから不思議だ。そう、許そうと思えるのは、あくまで妹君の笑顔の魅力であって、お腹に感じる柔らかいお尻の感覚とか、チラッと見える縞々パンツとかは全く関係ない。

「来夢、まずそこを退いてくれ」
「い~やぁ~♪」

と言いながら、来夢は吐夢に抱きついてスリスリと頬を寄せてきた。
ふわりと舞う来夢の髪から香る柑橘系の匂い。吐夢は一瞬、この香りに惑わされて、このままでもいいかと思ってしまった。しかし、すぐにそれでは駄目だと思って、いろんな未練を断ち切って、小柄で軽い来夢を力で押し返した。

「いいから退きなさい!」
「……もう、仕方ないなぁ~」

来夢が退く時に魅惑のストライプが見えて少し幸せな気分になった。
吐夢は常々、制服姿でダイビング技をするのはよくないと思っていた。制服のスカートが短いので、眼福もとい目に毒だった。しかし、止めてくれと言えないのは男の子の純情ゆえに。

「あっ、お兄ちゃん、お腹の具合はどう?」
「ズキズキする」

寝ていたところに大技をもらったので、当然ダメージは大きかった。

「そうじゃなくて、お腹すいてる?」
「……まぁ、そこそこに」

とウンザリした様子で答える吐夢。彼がこうして眉をひそめてウンザリしているのには、それなりに理由があった。

「じゃあ、今日もいっぱい食べてね。じゃないと減らないから」
「またサンマか……。お前、いくら安いからってサンマを大量に買い込み過ぎなんだよ」
「だって、この時期にサンマを食べないなんて日本人じゃないよ」

「だからって、三十匹とか買い過ぎだ!」
「お兄ちゃん、サンマの数え方は『本』だよ」

「どうでもいいよ、そんなの! 問題なのは、その数だ!」
「とにかく美味しく作ったからたくさん食べてね」

上坂家の台所は来夢が預かっていた。
来夢は性格や言動からはあまり家事が得意そうに見えないだが、実は父子家庭で育っていたため幼い頃から家事をしてきて、今では一人前の主婦レベルだった。

二人の両親、正確には来夢の実父と吐夢の実母は、ただいま海外出張中だった。そのため、全ての家事は来夢が一手に担っていた。吐夢もたまに家事を手伝おうとするのだが、「ありがた迷惑というか、ぶっちゃけ邪魔だからどっか行ってて♪」と無邪気に追い払われるので、こうして来夢の世話になっているだけだった。

吐夢と来夢は、それぞれの親の連れ子同士なので血の繋がりは一切ない。二人が初めて出会ったのは、両親が再婚した四年前。再婚当初は割と敬遠していたのだが、今ではすっかり仲良し兄妹になっていた。若干仲が良くなり過ぎた感はあるが。

ちなみに連れ子同士で結婚は出来る。
更に、両親不在。

いつ過ちが起こっても不思議ではない状況なのだが、今のところ兄としての理性が瀬戸際で踏ん張っているようだった。妹は過ちを犯す気満々だが。

「んん~、仕事の後の朝は辛いなぁ……」

仕事というのは、鬼祓いの仕事のことだった。
鬼祓いの仕事、先日のような退魔業は人目に付かないように深夜に行なわれるのが常だ。結果として鬼祓いが寝不足になることは多い。

寝不足の吐夢は愚痴りながら、身支度を整えてから食卓へ向かった。

「お兄ちゃん、遅い! 冷めちゃうよ」
「ごめんごめん」

軽く謝りつつ、吐夢は食卓についた。
予想していたとおり、食卓は昨日から変わらずサンマの天下だった。
サンマの煮付け、サンマの竜田揚げ、サンマの炊き込みご飯、サンマのすり身汁。朝から見事にサンマ尽くしだった。サンマ以外には茄子の漬物が居心地悪そうに隅っこに隠れていた。

「サンマだけでよくこれだけ作れるな。俺なんてグリルで焼くしか出来ないぞ。尊敬するよ、ホント」
「愛の成せる技だよ♪ お兄ちゃんに美味しく食べてほしいからね」
「何日も続かなければ、素直に嬉しいんだけどね」

と言いつつ、サンマのすり身汁を一口啜る。見た目的にサンマらしさがないので割とすんなり食べられたが、やはりサンマの味は強かった。

「……うん、美味い」

食べ飽きたといえ、美味しい物は美味しかった。

「よかったぁ~♪」

ニコニコと満面の笑みを浮かべる来夢。
吐夢は妹に釣られて微笑み、美味しいサンマ料理を頂いた。

全ての料理に手が込んでいるため、同じサンマとはいえ味わいが全く異なる。吐夢は飽きたと文句を言いつつも、箸の勢いは全く止まることはなかった。

こうして平穏な時間を過ごしていると、ふと命懸けの非日常が夢のように思える。
だが、あの赤黒く穢れた異形の世界は紛れもなく現実に存在していた。最近ようやく鬼祓いや妖怪の存在などを受け入れられるようになってきたが、昨夜聞かされた阿井輝和平の話は今もまだ信じられずにいた。

世界の裏側を知るたびに不快感が募っていく。
昨夜からずっと胸につかえている感情を思わず口から零してしまった。

「……なぁ、来夢……」
「もぐもぐ……、にゃに~?」
「……昨日の阿井輝の話、どう思った?」

「あぁ、アレか……。ちょっと、というかかなり辛い話だよね……」

来夢も昨日聞かされた話を思い出して表情を曇らせた。
美優から聞かされた御剣家と阿井輝家の関係は、これまで魑魅魍魎の世界と無縁だった上坂兄妹にとって衝撃的過ぎる事実だった。彼女から全ての話を聞き終えた吐夢達はしばらくその内容が信じられず、長らく言葉を失ってしまった。

再びあの話を思い出して、二人は声を失ったかのように黙り込んだ。
二人の思考は、爽やかな朝食の場から、静謐な空気に閉ざされた吉高神神社へ飛び立っていた。








昨夜、退魔業を終えた吐夢達は、美優の案内で吉高神神社の本殿に通された。
吉高神の町において重要な存在である阿井輝和平について話があると言われて、最初に聞かされたのは百鬼夜行の首魁アテルイのことだった。上坂兄妹は疑問に思ったが、真剣な表情だった美優に圧されて口を挟まずに話を聞いた。

千年以上前に東北地方を支配していた悪鬼羅刹の首魁アテルイ。
当時の朝廷軍の統率者であり、アテルイを封じた御剣家の始祖。
そして、唯一アテルイを滅ぼすこと出来る破邪王切。

上坂兄妹はアテルイに関する重要な情報を掻い摘んで説明を受けた。無論、全ての情報ではないし、大分説明を端折られた部分はあったが、吉高神地域のバックグラウンドに隠された事情を知らされた。

「アテルイと阿井輝って名前似てるね?」
「来夢、今の話を聞いた感想がそれかよ……」

そう突っ込みを入れる吐夢本人も同じことを思っていたので、あまり強く言えなかった。アテルイと阿井輝、あまりに簡単に気付けるアナグラムだ。
阿井輝の話をすると連れられて聞かされた話がアテルイの話だった。この両者が全くの無関係と考えられるほど、上坂兄妹は馬鹿ではなかった。

「阿井輝の由来は、アテルイですから似ていて当然です。アテルイの名を裂き、組み直すことで阿井輝という名が生まれたんです」

「……それじゃあ、やっぱりアテルイと阿井輝って何か関係が……?」
「もう薄々勘付いているかもしれませんが、阿井輝家の嫡子は代々、アテルイの魂を封じる器の役割をしています」

「じゃ、じゃあ、阿井輝は……」

「はい。阿井輝和平君は、今生のアテルイの器です」

その衝撃的過ぎる事実を知り、上坂兄妹はしばし言葉を失った。
アテルイを討ち倒して魂を封印した御剣家と、その魂を封じる器となった阿井輝家。確かにこの両家は切っても切れぬ縁だろう。

美優は説明を省いたが、鬼の魂を封じる方法は幾つか存在する。例えば、御神木や御神体などの霊的な力を有した無機物に封じることは可能だ。一般的には、そちらの方法で封印を行なうことが圧倒的に多い。三大妖怪だった酒呑童子を斬ったとされる童子切安綱には討ち倒した鬼の魂が宿っていると逸話もある。

だが、無機物に魂を封じるのには限界がある。本来、魂は肉の器にあるのが自然であり、無機物に封じられることは不自然だった。それ故、魂の器として最適なのは、肉の器、特に人間だった。だが、この方法には当然たくさんの問題点がある。だからこそ、普通は使われない禁断の封印方法だった。
逆説的に言えば、禁断の封印方法を使わなければアテルイを封じることが出来なかったのだ。

「阿井輝はそのことを……」
「……知りません。御剣家に破邪王切を扱える者が、小鈴が生まれてしまったから……」

美優は沈痛な面持ちで首を横に振った。
阿井輝家は代々、アテルイの魂を封じる器となることを義務付けられた家系。本来ならば、アテルイの器となった者には、その事実が伝えられる。そうでなければ、次代へアテルイの魂を移し替えること儀式を行なえないからだ。

しかし、阿井輝和平は、自らがアテルイの魂を封じる器である事実を知らない。いや、意図的に知らされていない。
何故なら、アテルイを滅ぼせる者が現れてしまったから。

次代へアテルイの魂を伝える必要がないため、最後の器となる阿井輝和平には事実を知らせる必要がない。和平が全ての事実を知れば、あまりに残酷な仕打ちになる。

「……破邪王切って、アテルイを滅ぼせる刀のことだよね? ……それって、その……、アテルイの魂だけを滅ぼせるの?」
「…………魂を滅ぼすためには、その器を壊さなければいけません」

「それはつまり…………」

吐夢はその事実を口にしようとしたが、上手く言葉に出来なかった。
喉が異様に渇き、湧き上がるはずの言葉が枯渇してしまった。全身がそのまま沈黙を続けろと訴えるように震え出した。来夢と美優は何も言おうとはしなかった。いや、吐夢と同じように決定的な言葉を口にしようとすることを恐れていた。

しばし重苦しい沈黙が続くが、吐夢は覚悟を決めて、その事実を言葉にした。

「……阿井輝ごとアテルイを殺すってことか……?」
「そうです……。そして、それを出来るのは小鈴だけなんです……」

「コリンちゃんが……、そんな辛いことを……。そんな……、そんなのってあんまりだよ! だって、コリンちゃんと阿井輝って幼馴染なんでしょ! ううん、あの様子だと幼馴染ってだけじゃない! コリンちゃんは阿井輝のことが好きなんでしょう! じゃあ、コリンちゃんは好きな人を殺さないといけないの! そんなの酷過ぎるよ!」

来夢は今にも泣き出しそうなくらい悲しい表情で叫んでいた。
上坂来夢はとても感受性の強い子だった。小鈴の運命、好きな人を殺さなければならない定めを知り、来夢は本気で悲しみ嘆いていた。そして、理不尽過ぎる運命に対して本気で怒っていた。そんな残酷なことを認めたくなかった。
だから、強く叫ぶ。哀れな小鈴の運命を否定したくて、悲しみの涙を浮かべながら猛り叫んだ。

「……でも、小鈴以外には出来ないことなんです……」

「だったら、どうしてコリンちゃんは阿井輝を好きになっちゃったんだよ……。殺さなきゃいけない人を、どうして……?」

ぐすっと鼻を啜りながら、来夢は問うた。
吐夢はボロボロと涙を流す来夢の肩を抱き、彼女に泣き場所を提供した。来夢は優しい兄の胸に飛び込み、ぐすぐすと咽び泣いた。
来夢が泣き止み、落ち着いたことを確認すると、美優は小鈴の出生について話し出した。

「……小鈴は本来、阿井輝家の警護を行なう御剣の分家筋の生まれでした」
「阿井輝家の警護……?」

吐夢は来夢をあやすように頭を撫でながら尋ねた。

「はい。阿井輝家の血筋にはアテルイの器になる素質はあっても、鬼祓いとしての素質はありません。それゆえ、アテルイ復活を目論む妖怪達から身を守る術を持ち合わせていないんです。そんな彼らのために、自ら盾となって護衛するのが御剣分家の役割でした。
 だから、小鈴はずっと阿井輝君と一緒に育ちました。まるで姉弟のように仲良く育ち、小鈴は阿井輝君を守れる強さを得るために、幼いながらも鬼祓いの修行をとても頑張っていました」

美優は話しながら、幼少期の小鈴と和平のことを思い出していた。
あの頃の二人は、同じ幼馴染である美優が羨むほどに仲が良かった。小鈴はいつも姉気取りで和平の手を引っ張り、どこまでも一緒に連れて行った。当時身体の弱かった美優はそんな二人の様子を眺めることしか出来なかった。

子供心にお似合いの二人だと思っていた。
だけど、後に知る。現実の中に秘められた残虐な運命を。

「でも、皮肉なことですよね……。小鈴には才能があり過ぎたんです……。十歳になる頃には、御剣本家の当主さえ圧倒する実力を手に入れてしまったんです……。小鈴の規格外の才能を目の当たりにした御剣本家は、彼女に破邪王切を扱えるかどうか試し……」

「……その結果、御剣は破邪王切を扱えてしまった……ってことか……」

「えぇ、そのとおりです。破邪王切に選ばれた小鈴はアテルイ殺しの定めを背負わされました。……阿井輝家の嫡子がアテルイの器であることを知らされるのは、心身ともに健やかに育った後というのが通例でしたので、阿井輝君にはまだ彼自身がアテルイの器であることは伏せられていました。そして、それは結果として、好都合でした」

「……どうせ殺すなら、真実なんて知らない方がいいってか?」

不快そうな表情で吐夢は言い捨てた。

「……返す言葉がありません。非人道的ということは私達が一番理解しています。でも、私達にはそれ以外の手段がないんです。たとえ、鬼だ悪魔だと罵られようと、吉高神の住民を守るためには阿井輝君を犠牲にする他ないんです。
 吐夢君、貴方が我々鬼祓いを軽蔑する気持ちはわかります。実際、私自身もこんな方法でしか人を守れない弱さを侮蔑しています。でも、どうか……、その感情を小鈴には見せないで上げてください」
 ある種の覚悟を秘めた表情のまま、美優は三つ指を付いて深く頭を下げた。
 土下座までされた吐夢は思わず、ぎょっと息を呑んだ。阿井輝の件に非人道さを感じて悪態を吐いた吐夢だったが、それは小鈴や美優に悪意を向けたつもりではなかった。だから、こんな風に頭を下げられると逆に恐縮してしまう。

「今の小鈴には、心の余裕はありません……。だから、どうか少しでもあの子を傷付けるような言葉は控えてください、お願いします」

「俺はそんなつもりじゃ……」

「小鈴は大好きな人を殺さないといけないんです! その想い、その覚悟を、同じ女として守るのが小鈴の親友である私の役目です! ……だから、どうかあの子を苦しめるようなことを言わないでください! ほんの些細な言葉でも、小鈴の想いと覚悟を殺しかねないんです!」

「……あぁ、わかった。気を付けるよ。だから、友衛も顔をあげてくれよ」
「はい……」

吐夢は顔をあげた美優と目を合わせられなかった。気まずそうに目を逸らし、ボリボリと頭を掻いた。視線をまだ胸元で丸くなっている妹に向けるが、彼女もやはり気まずそうな表情をしていた。
誰も次の言葉を発しなかった。声を出すことさえ申し訳ない空気が充満していた。重苦しい沈黙が長々と続き、吐夢が帰ると言い出すまで大分時間が掛かった。

その日の話は、とても後味の悪い終わり方をした。








「……阿井輝の話は、私達が悩んでも仕方ない問題じゃない?」

来夢は渋い顔でそう断じ、こぶ茶を啜った。
阿井輝和平およびアテルイの問題は、鬼祓い見習いである上坂兄妹が頭を悩ませたところで何も出来ない。そもそも彼らにはアテルイ問題に口出しできる権限も実力もない。

アテルイを殺せるのは、破邪王切を扱える小鈴のみ。
だから、これは小鈴だけにしか解決できない問題だ。

「どうにか……、できないのかな……?」

小鈴の助けになりたい。昨日の話を聞いて吐夢の中に芽生えた強い気持ちだった。
そんな兄の気持ちに気付いた妹は少しだけ複雑な気持ちだった。来夢も当然、小鈴の助けになりたいという気持ちはあった。だが、兄の気持ちが小鈴に向いていることが面白くないという嫉妬も同時に湧いていた。

だから、来夢は冷たい溜め息と共にこう言い放った。

「……まぁ、少なくても今のお兄ちゃんの力じゃ無理でしょ」
「うぅ……。わかってるよ、くそ!」

バッサリと言われて、ぐうの音も出ない吐夢。
確かに来夢の言うとおりではあるが、吐夢は彼女のように割り切ることは出来なかった。何とかしたいのに何も出来ないもどかしさに胸が締め付けられた。
しばらく考え込んだが、結局何も出来ないという結論しか出ず、吐夢は苛立たしげに朝食の残りを口の中に掻き込んだ。

「さっさと学校行くぞ、来夢!」
「あっ、待ってよ、お兄ちゃん!」

食器を片づけて上坂兄妹は一緒に学校へ向かった。
基本的には兄妹二人だけで登校することが多いが、時間帯が合えば小鈴や美優と一緒になることもあった。上坂兄妹が鬼祓いとなってからは、何かと四人で行動することが多くなっていた。それは共有の秘密を持つ者同士なので気安いということもあるが、純粋に友として仲間として強い信頼関係が築けてきたからだ。

今日も通学路で、小鈴と美優と会った上坂兄妹はいつものように声を掛けた。

「おはよう、御剣、友衛」
「コリンちゃん、ミューちゃん、おっは~♪」
「おはようございます、吐夢君、来夢」
「…………」

小鈴だけ返事をしなかった。無視をしているのではなく、二人に挨拶されたことに気付いていないようだ。視線は変わらず前方を向いたままだ。
吐夢と来夢はそっと小鈴に近付き、彼女の視線の先を追った。

そこには、阿井輝和平がいた。

和平を見つめる小鈴の表情はどこか寂しげで、その表情を盗み見たことに罪悪感を覚えるほどの切なさを感じさせた。小鈴の大事な幼馴染であり、小鈴がいずれ殺さなければならない存在。彼女はどんな想いで和平を見つめているのだろうか。

「コ~リ~ンちゃん♪」

来夢は切なそうに和平を見つめる小鈴の背中に勢いよく飛び付いた。
小鈴は突然圧し掛かった荷重によって前のめりに倒れそうになるが、すぐにバランスを取り直した。振り返って来夢と顔を合わせると、不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。

「……来夢、いきなり背後から抱き付くな」
「だって~、コリンちゃんが隙だらけなのがいけないんだよ~」

「お前は大人しく吐夢にでも抱き付いていろ」
「まぁ、たまにいいじゃん♪ コリンちゃん、肌すべすべ~♪」
「コラ、頬をすりつけるな! くすぐったい!」


「……上坂来夢、処刑リストに追加……」


「今どこかからか殺気を感じたよ!」
「……まぁ、自業自得だな。ファンクラブ如きに後れを取るなよ、来夢。吐夢みたいに無様を晒したら、地獄の特訓フルコースに招待してやる」

「酷しッ!? 可愛い弟子を助けようと思わないの、コリンちゃん!」
「弟子には厳しいくらいでちょうどいい。それより、私の背中から降りろ。これ以上、恨みを買ったら大変だぞ」
「ちぇ~……」

 来夢は仕方なく小鈴の背中から降りて、彼女の隣を歩いた。その二人の後ろに吐夢と美優が静かに並んでいた。
 ちょうど通学通勤のピークの時間帯なので、田舎町の大通りには大勢の人達がいた。小鈴達と同じ吉高神高校に向かう者もいれば、他の学校や中学に通う者達もいる。駅前に向かう通りなので、大学生やサラリーマンの姿も多かった。

「お~い、和平! 和平和平!」
「……鳥飼(うかい)、大声で僕の名前を連呼するな」

小鈴達の少し前方を歩く和平が友達と合流していた。
鳥飼広治(うかいこうじ)。つい最近、小鈴や和平と同じクラスに転校してきた男子生徒だ。天然パーマの髪を肩まで伸ばした長髪の少年で、性格は明るくてノリがいい。転校してきたばかりなのに、あっという間にクラスに溶け込んで、今やクラスの中心になりつつあった。
そんな人気者の鳥飼であったが、何故か根暗で人と距離を置いている和平に付き纏っていた。

「……また鳥飼か……」

小鈴は何となく面白くなさそうに呟いた。

「何? コリンちゃんは阿井輝がウーチンと仲良くしているのが嫌なの?」
「別にそんな訳じゃない……。ただ……」
「ただ……?」

来夢がそう問うと、小鈴は返す言葉に迷って黙り込んだ。今、小鈴の胸の中に渦巻く幾つもの想い、それをどのような言葉にしていいのか彼女自身にもわからなかった。

「……いや、何でもない」

結局、小鈴は自らの想いを口に出来ずに頭を振った。
自分にはその想いを口にする資格すらない。小鈴は下唇を噛みながら、そう思っていた。

「ったく、何で僕なんかに付き纏うんだ、お前?」
「んっ? 和平と一緒にいるのが楽しいから?」
「……つまり、嫌がる僕の様子を楽しんでいる訳だな」
「そうそう。嫌がる和平の表情がそそる」

「僕の半径一キロ以内から出てけ!」

「HAHAHA、それだと学校に行けないじゃないか?」
「お前が付き纏ってるせいで、最近はあちこちから変な目で見られて迷惑なんだよ!」
「まぁまぁ、俺達の仲を嫉妬したい奴等は勝手にさせとけって」

「だから、そういう発言を止めろ!」

和平は鳥飼のことを鬱陶しがっているが、傍から見ると仲がよさそうだった。最近はもう鳥飼を追い払うことを諦めている節があり、どこから見ても友達に見える。

それが小鈴にとって羨ましかった。
いつも和平の手を引いていたのは小鈴だった。
ずっと、ずっと自分が和平と一緒にいたいと願っていた。

だから、それが一生出来なくなった小鈴にとって、和平の側にいられる者全てが羨ましかった。それがつまらない嫉妬であることは自覚していた。だが、自分の気持ちを完全に殺せるほど、小鈴は達観できなかった。
和平を守るため、鬼祓いとして強くあろうと切磋琢磨してきた。
それは姉が弟を大切にするような気持ちだと思っていた。しかし、その想いが姉弟愛とは違うものだと気付いた時には全てが遅かった。

小鈴が自分の本当の気持ちに気付いたのは、愛する人を殺す存在になった時だった。

その絶望を知り、小鈴は自らの命を断とうと試みたことがあった。だが、小鈴の自殺は失敗して、今は二十四時間体制で監視を受けていた。彼女には死という逃げ道は許されず、和平を殺すために飼い殺しにされた家畜同然だった。

だから、小鈴は一つだけ決めていたことがあった。
和平を殺した後、自分も死ぬ、と。

「カズちゃん……、私は君を……」

左手首を握り締めながら、小鈴は今後こそ失敗しないと誓う。彼女が握り締めるその手の下には、決して癒えない傷跡が深く刻まれていた。












あとがき

あとがきといっても、実はこの作品すでに書き上がっているので、正確にはあとがきではないんですよね。
まぁ、それはさておき、素人のプロレス技は危険なので止めましょう。あと、スカートでやるのもよくないですね。

では、どうやって起こすのがベストでしょうか?
うん、やはり爆竹ですね。耳と鼻の穴に入れてやりましょう。
どんなに寝起きが悪い人でも一発で起きるでしょう。
ぜひとも試してみてください。

私はそんな非人道的なことは出来ないので、どうか私じゃない誰かがやってください。
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