作家志望の不定期ブログです。
無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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ポンコツ警部と欠けたダイイング・メッセージ(後編)
2010-06-01-Tue  CATEGORY: 欠けたDM
110HITと119HITのリクエスト小説です。
今回で事件解決です。皆様は犯人がわかったでしょうか?

一応、ノックスの十戒は守れたと思いますが、
ヴァン・ダインの方は微妙にアウト……かも?
あの二十番目の奴……。

まぁ、それはさておき解決編です。
キリ番を踏んでくれた春さんと飯野君には大感謝です。

あ~、思った以上に長さになってしまったので、
FC2小説の方に一気読みページを作成しました。
そっちも、ついでによろしくお願いします。

FC2小説のページはここをクリック



ポンコツ警部と
欠けたダイイング・メッセージ(後編)


俺は市井警部と共に犯人の自宅へ急いでいた。
市井警部はあちこちに連絡を取って、捜査員に犯人を探させていたり、香川浩司の事件の詳細を聞いていたり、忙しそうにしていた。

犯人が家に到着するまでの間に、香川浩司の事件について少し説明しておこう。

香川浩司は首吊り自殺に見せかけられて殺されていた。

素人が思うほど簡単に首吊り自殺の偽装は出来ない。鑑識がしっかりしていれば、ほぼ確実に自殺か他殺かは判別できる。

絞死の場合、自殺と他殺は決定的な違いが現れる。
まず決定的なのは首が絞められる際に頸部に残る索痕だ。

自殺の索痕は、頸部をほぼ水平に走るように残る。しかし、他殺の場合はどうしても索痕が斜め方向に入ってしまう。顔面の鬱血の仕方も変わってくる。

他にも、自殺に偽装するために人間一人を持ち上げるという行為は重労働で、遺体に不自然な傷跡が幾つも残る。ロープで擦った痕はもちろん、遺体を運ぶ際にぶつける可能性もある。死後についた傷はすぐにわかるので、不自然な痕跡があれば、すぐさま他殺の可能性を疑える。

あとは、失禁の痕跡なども判別材料になる。絞死すれば当然失禁する。その位置なども自殺と他殺で決定的に異なる。

幾つもの不審点から、浩司は何者かによって他殺と断定された。

香川浩司を殺したのはおそらく香川宗司を殺した犯人と同一犯だ。その根拠は自殺偽装のために残された遺書だ。その内容は、兄を殺したのは自分であり、そのことを後悔して自殺するというものだった。この遺書が認められて得をするのは、香川宗司を殺した犯人以外にいない。

また、犯人がわざわざ浩司を殺すということは、彼が犯人の共犯者であった可能性が高いということでもある。

……あぁ、それと大事なことを言い忘れていた。

浩司の自宅から、付け髭が一つ見つかった。その発見は市井警部の推理を裏付ける物だった。


「犯人は自宅にいるでしょうか?」
「まぁ、日曜の午後だし、いてくれると助かるな」

「先輩、犯人を口説き落とす役は私にやらせてください」


へぇ、珍しいじゃねぇか……。
このポンコツは普段、刑事と見られることがほとんどない。それは時と場合によって利点にも欠点にもなるが、こいつはそれに関係なく人前に出ることを好まない。

だが、市井警部が自ら直接出るというなら何か考えがあるのだろう。こいつに任せて悪くなった試しはない。

「……まぁ、別に構わないぜ。だが、今のところ犯人を逮捕できるような証拠はないぞ。どうする気だ?」

「秘密です。敵を欺くにはまず味方からです。まぁ、頭の悪い先輩を言い包めるのなんて簡単ですが、やっぱりここは正直に言いたいと思います」

この野郎、いちいち癇に障る言い方しやがって……。
車の運転さえしてなければ、ぶん殴ってやれるのに。まぁ、いい。事件が終わったら一発殴ろう。










都内マンションの一室。
ここが犯人の住む部屋だった。

俺達は静かに近寄って室内の物音に耳を傾けたが、特に人の気配は感じられなかった。自宅にいるかは不明だが、とにかくインターホンを鳴らしてみた。

室内から機械的なチャイム音は聞こえたが、人が動く気配は全く感じられなかった。そのまま数秒待ったが、誰かが玄関を開けに来る様子はなかった。

不在だろうかと思い、再度チャイムを鳴らした。すると、タッタッタッと駆け寄ってくる物音が聞こえた。


「貴方達は……」

「こんにちは、青島香織さん」


青島とは宗司の事件で面識があった。俺達が刑事であることは承知しており、俺達を見るなりに眉をひそめた。


「……何でしょう? 宗司の事件でまた何か?」

「いいえ。今日はそちらの事件ではなく、香川浩司さんが死亡した件でお伺いことがあって訪問しました。状況的には自殺のように見えますが……」

「浩司さんが自殺!? 本当ですか、それは!?」

「えぇ、浩司さんが死亡したのは確かです。今はこの死に事件性がないか捜査中です。宗司さんの事件があった後なので警察も慎重にならざるを得ないんですよ」

「そう、ですか……。それで、私に聞きたいことというのは……」

「遺書に不審な点がありまして……、少々込み入った話になるかもしれないので、中に入れてもらえないでしょうか?」

「……え、えぇ、わかりました。どうぞ……」


青島は明らかに嫌そうな様子だったが、玄関の戸を大きく開けた。まぁ、青島に限らず、刑事を家に入れることを歓迎する奴は少ない。だが、奴の場合は事情が異なるだろう。

さて、市井警部はどうやって青島を落とすのかね? まぁ、お手並み拝見と行こうか。

青島の部屋はパステルカラーの壁紙が貼られ、ぬいぐるみや可愛いオブジェが随所に並んでいて、成人女性にしては少女趣味っぽい部屋だった。家具も装飾が凝った物を好んでいるようで結構金が掛かっていそうだった。

「わぁ~、可愛い部屋ですね。二十代後半の女性がこんな少女趣味はどうかと思いますけど、可愛いは正義ですよ。うん、大丈夫大丈夫。セーフですよ、多分」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

そこは怒ってもいいと思うぞ、青島。
まぁ、相手を怒らせるのは悪くない。怒りは正常な判断力を奪わせる。
だが、今のはポンコツの天然だろうな……。

青島はこめかみを引き攣らせながらも、俺達をソファに座るように促した。……お茶は出さないか。まぁ、別にいらんが。

「……それで、遺書に不審点というのは?」
「あら? 浩司さんが自殺した理由は聞かないんですか?」

「い、いえ……、それはもちろん気になりますが、まずは刑事さんのお話を聞こうと思っただけです!」

「そうですか。まぁ、そんなに急がなくても一から順に説明しますよ」

わざとらしくニッコリと微笑む市井警部。
青島は市井警部の軽いジャブで動揺を見せた。青島にとって浩司の死が自殺で処理されれば、警察の手を完全に逃れることが出来る。

だからこそ、遺書の不審点という事柄が気になって仕方ないのだろう。

「浩司さんが発見されたのは本日の午前十一時九分、場所は浩司さんの自宅です。偶然彼の家に遊びに来た知人達が発見したようです。その知人達は浩司さんの家にはよく人が遊びに来るようで、合い鍵の場所を知っていたそうです。青島さんは、この合い鍵の存在を知っていましたか?」

「……い、いえ。友人が多いということは知っていましたが……」

まぁ、知っていれば、当然排除していただろうな。
合い鍵を排除すれば、知人達は浩司の家に入れず、遺体の発見は遅れたはずだ。

犯人にとって遺体の発見は遅れてくれれば遅れるだけいい。時間の経過によって証拠は失われていく。死亡推定時刻の範囲も大きくなり、アリバイの確認も難しくなる。

「へぇ、そうですか。青島さんは浩司さんの自宅に行ったことはないんですか?」

「……え、えぇ、ありません」

「そうですか。彼の部屋、宗司さんの部屋と違って随分と綺麗だったそうですね。埃一つないくらいにしっかり掃除してあって、鑑識さんは調べやすいって喜んでましたよ。
 おっとと……、話が脱線しましたね。浩司さんを発見した知人達はすぐさま119番通報したんですが、浩司さんはすでに事切れていました。遺体の近くに遺書があり、知人達は浩司さんが自殺したと思ったみたいですが、警察が事件性の捜査に乗り出しました」

「は、はぁ……」

「死亡推定時刻は本日の午前一時から一時半の間です。あっ、一応お仕事なんで聞かせていただきたいんですが、深夜一時から一時半の間、何をしていました? まぁ、この時間帯にアリバイがある方が不自然だと思いますけど」

「……その時間は普通に寝ていました」

「まぁ、そうですよね。それで、本題の遺書の件ですが……」

青島の表情に緊張が走る。
遺書の件は彼女にとっての正念場だ。ここを乗り越えて浩司を自殺と処理させられれば、青島は逃げ切れたと思うはずだ。

さて、市井警部はどうする気だ? この遺書の件で青島を釣るのか? それとも、敢えて逃がして油断したところで仕留めに掛かるのか?


「ずばり、その遺書の存在から宗司さんを殺害したのは貴方であると示唆されました」


おぉ~、直球ど真ん中を投げやがったな。
まぁ、微妙な言い回しであるが、嘘ではない。浩司が他殺であることは間違いない。にもかかわらず現場に遺書が残され、なおかつ宗司を殺して後悔したから自殺するという内容だった。こんな遺書で得をするのは真犯人以外には存在しない。


「そんな……!? 有り得ません!! あの遺書には、そんなことが書かれているはずが……」

「おや? 遺書の内容も知らない貴方がどうしてそんなことを断言できるんですか?」

「そ、それは、だって……」


浩司の遺書を書いたのは青島自身なのだから否定できて当然だ。実際、遺書に書かれている内容そのものには、青島が犯人であると示唆する文言は一切ない。

問題なのは、遺書の存在そのもの。

容疑者の中で青島だけが浩司を利用したアリバイトリックを使える。そして、自殺偽装された浩司と遺書の内容。ここから導き出される答えは一つしかない。


「わ、私が宗司を殺すなんて、有り得ません!! そ、それに……、私にはアリバイがあるじゃないですか!? 宗司は十四時二十分の段階で生存が確認されているんですよね!? だったら、その時間に生放送に出ていた私が宗司を殺せるはずがないですよ!!」


確かに、最初はそれがネックだった。
仮に宗司の遺体が早期発見されて、死亡推定時刻の範囲が狭まっていたとしても、十四時二十分に生存が確認されていることが問題だった。

死亡推定時刻は絶対というモノではない。あくまで推定だ。実際に生存を確認されていれば、死亡推定時刻がズレていても、実際に確認されていた時間の方が優先される。

今回の事件でいえば、死亡推定時刻が十四時二十分より以前であっても、実際に生きていることが生存確認されている十四時二十分の方が優先される。


つまり、生存確認された時間に合わせて、死亡推定時刻が書き換えられることがあるということだ。


当然と言えば、当然だろう。あくまで推定の時間と、実際に確認された時間。どちらが優先されるかは説明するまでもない。だが、この生存確認を誤魔化すことが出来れば、死亡推定時刻そのものをズラすことが出来る。

まぁ、今回の場合は遺体の発見が遅れて、死亡推定時刻の範囲が大きくなったので、不自然な時間のズレが生じなかった。警察側としては死亡推定時刻を狭めることが出来たと喜んでしまった。

それこそが青島と浩司の罠だった。
全く……。わかってしまえば、単純すぎるトリックだ。

「青島さん、落ち着いてください。問題がズレていますよ。今私が聞いたのは、どうして遺書の内容を知らない貴方が、まるでその内容を知っているような口振りで私の意見を否定したか、ということです」

「そ、それは……、有り得ないじゃないですか? だって、そんな……。どうして……、私が宗司を殺したなんて……。遺書には、遺書にはなんて書かれていたんですか!?」

「捜査内容なので、ちょっとお話することは出来ませんねぇ~?」

思わず殴りたくなる笑顔を浮かべる市井警部。
遺書の中に青島が宗司殺しの犯人と示唆する文言はないはずなのに何故か疑われている。遺書の内容を知っているはずの青島としては歯痒いだろう。あと、このポンコツを一発殴りたいはずだ。俺も殴りたい。

「まぁ、青島さんにとっては寝耳に水な話ですし、驚くのも仕方ないと思います。でも、現にこういう遺書が出てしまっていますからねぇ。困っちゃいましたねぇ?」

誤解を助長させるような意地の悪い言い方だ。
遺書自体には、青島が犯人だと示す文章は一切書かれていない。そして、市井警部も誤解させるような言い方をしているが、そうした事実は直接口にしていなかった。

市井警部は遺書の不審点だけをチラつかせ、青島を巧みに翻弄させていた。怒り、焦り、動揺していけば、いずれ必ずボロを出すだろう。

「わ、私を動揺させて騙そうとしているんですか……?」

青島も追いつめられている自覚があるようで、何とか冷静になろうとしていた。しかし、このポンコツは人を不愉快にさせることに関しては天才的だ。隣で見ていても思わず殴りたくなる。

「んん~? どうして、そういう意見が出るのかわかりかねますねぇ。青島さんは遺書の内容を知らないのに、何故そんな風に思うんですか? 遺書の存在が貴方を犯人だと示しても、何もおかしくないと思うんですけどねぇ?」

「お、おかしいわよ!! 遺書の内容を知らなくても、そんなことが書かれるなんて有り得ないわ!! 浩司さんがそんなことを書くなんて!!」

口調も乱れてきて、青島は相当に切羽詰まった様子だった。
さて、そろそろ頃合いじゃないのか?


「まぁまぁ、落ち着いてください。あんな死に方、どう見たって他殺です。遺書自体が偽装された可能性だってありますし、青島さんが犯人と決まった訳じゃ……」

「首吊った死体のどこに他殺の要素があるのよ!? あんなの一目見て自殺だってわかるでしょ!? 大体、あの遺書には……」


……見事に釣れたな。
市井警部はニヤッと勝利の笑み(見ていると殴りたくなる)を浮かべた。


「おやおやおや~、まぁまぁまぁ~! 私、浩司さんが首吊りの状態で見つかったなんて言ってないのに、どうしてそんなこと知っているんですかぁ~?」

「……ッ!? は、嵌めたわね……」

「残念でした~、青島さん♪ 今のセリフ、しっかり聞かせてもらいましたよ♪
 浩司さんを殺した犯人しか知らないことを知っていた件について、あとでじ~~っくりと強面の人達に聞かれると思いますが、頑張ってください。今の貴方は浩司さん殺しの重要参考人ですから、徹底的に追及されますよ~。
 あっ、それとつい先程入った情報ですが、浩司さんの室内に女性の物と思われる長さの毛髪が見つかったそうです。浩司さんは随分と綺麗好きな方で、浩司さん以外の毛髪ってこれしか見つかってないんですよね。さてさて、この毛髪って誰のものなんでしょうか? やっぱり、浩司さん殺しの犯人以外に考えられませんよね?
 あっ、でも、青島さんは大丈夫ですよね。だって、さっき貴方は浩司さんの家には行っていないって言ってましたからね~」

「そ、それは……」


青島の顔がみるみると蒼ざめていった。
今の失言は、浩司殺しの自白にも等しいモノだった。弁明のしようもないだろう。犯人しか知り得ない情報を知り、なおかつ現場に毛髪が残っている。重要参考人どころか完全なクロだ。


「あぁ、そうそう♪ 先程、貴方に宗司さんを殺せないと言っていましたが、そのアリバイは崩れていますよ♪」


市井警部はすかさずトドメを刺しに行った。
浩司殺しは誤魔化しようがないとしても、まだ宗司殺しの証拠は何一つない。犯人の自供を得るためには、青島が抵抗する気力を失うまで心を折る必要があった。

「十四時二十分に目撃された宗司さんは、髭を剃り落とした浩司さんだったんです。そして、浩司さんは宗司さんが所持していた付け髭を使って、髭を剃り落としたことを隠したんです。この時に使用していたと思われる付け髭は、浩司さんの自宅で発見されました。
 さて、あとは説明するまでもないと思いますが、この十四時二十分の生存確認が偽装だとすると、死亡推定時刻が大幅に広がってしまいます。それがどういうことかわかりますよね、青島さん?」

「…………」

元々の死亡推定時刻は、一月十日の十三時半から十五時半の間だ。
そして、宗司の自宅からテレビ局までは二十分で行ける距離だ。

十三時半に宗司を殺害し、テレビ局に戻るのに二十分。十四時の生放送には間に合う計算だ。十四時二十分の壁さえがなくなれば、容疑者の中で青島だけが宗司を殺すことが出来る。

それを理解していた青島はガタガタと震え出した。浩司殺しの件は逃げられず、宗司殺しのアリバイは崩れた。ここまでカードが揃っている状況で警察から逃れられるとは思っていないだろう。


「十三時半頃に宗司さんを殺害した貴方は、浩司さんを利用してアリバイを作ることを思い付きました。まぁ、浩司さんがその場にいた理由としては、貴方達二人の仲裁役として、ですか? もしかしたら、他の理由かもしれませんね。とにかく貴方は、浩司さんを利用して自身のアリバイを確保したんです。そして、念には念を込めて宗司さんの遺体を人気のない山に遺棄した、と。
 ですが、貴方達の予想以上に早く宗司さんの遺体が発見され、動揺した浩司さんが自首を促したんじゃないでしょうか? 当然貴方は自首などする気はなく、浩司さんが邪魔になって殺害。
 さて、何か違うところはありますか? まぁ、あったとしても、それは取り調べをする強面の人達に言ってくださいね☆」

「あいつが……、全部あいつが悪いのよ!! あの男のせいで私の人生は滅茶苦茶になったのよ!! 八年間ずっと尽くしてきた私を捨てて、あんな社長令嬢ってだけのブスと結婚するなんて……!! 私の方がずっと宗司を愛していたのに……、ずっと尽くしてきたのに……、あの男は……!!」


青島は鬼の形相で髪を振り乱し、宗司に対する恨み言を吐き散らした。テーブルを拳で何度も叩きつけ、そのまま力尽きたように泣き崩れてしまった。

八年間付き合い続けた男に裏切られ、女性としてもっとも輝ける時間を棒に振ってしまった恨みは理解できないことはない。だが、自分の人生を踏み躙られたからと言って、誰かの人生を奪っていい理由にはならない。

たとえ、相手がどんな外道であっても、人には人を殺す権利はない。

人は何度だってやり直せる。青島も宗司のことなど忘れて、新しい人生を歩めばよかったのだ。確かに気持ちでは割り切れないものはあるだろうが、だからといって復讐に走ることは許されない。

いや、許されないだけではない。人殺しの罪を犯してしまえば、人生をやり直す機会さえも失われてしまう。


「二人の人間の人生を滅茶苦茶にした貴方にそんなことを言う資格なんてありませんよ。さぁ、話の続きは署で行いましょうか?」

「うわあああああああああああああああああああああああッ!!!」


八年間一人の男に尽くし、捨てられた女の慟哭が悲しく響いた。
奪われた時間は決して取り戻すことが出来ず、奪った命もまた還ってくることはない。彼女は殺人という罪で二人の人生を絶ち、自らの人生さえも失った。

彼女はもう二度とやり直すことは出来ない。
たとえ、彼女自身がどれだけ同情に値する人物であっても、人殺しの罪を犯してしまった時点で彼女に同情する価値はなくなった。










署に連行された青島は二つの事件の真相を全面的に自供した。
市井警部の推理には一つの間違いもなかった。

まずは宗司の事件について。一月十日十三時、青島は復縁の話をするために宗司の家に訪れていた。仲裁役として浩司も同席していた。しかし、宗司は青島と復縁する気はなく、冷たく彼女を拒絶した。

青島は宗司の態度に激昂し、室内にあった灰皿を掴み、背後から殴打して致命傷を負わせた。

その際、青島達は宗司が即死したと思ってしまったため、すぐに部屋から出て行ってしまった。だが、実際には宗司は即死しておらず、ダイイング・メッセージを残したのだ。

そして、青島のアリバイのために浩司が宗司を装って書留郵便を受け取った。彼はその後何食わぬ顔で業務に戻り、その日の深夜に青島と一緒に宗司の遺体を山林に捨てに行った。

遺体の運搬には青島の車が使われたらしいので、今は鑑識が証拠集めに躍起になっている。

自供は得られたが、物証はあるに越したことはない。あとで検察やら裁判で問題になる可能性もあるからだ。

次に浩司の事件について。浩司の殺害を決めたのは、宗司発見後に彼がしつこく自首を促そうとしたからだった。このままでは彼だけでも警察が行く可能性もあったので、自殺に見せかけて殺すしかなかったそうだ。

とにかく二つの事件は問題なく起訴に回せそうだ。
現場の刑事がやれることは全て終わり、あとは裁判で決着がつくだろう。二人の人間を殺した罪は決して軽くはない。相当の裁きを受けることになるだろう。


「じゃあ、事件解決を祝って乾杯です!!」

「おぉ、乾杯」


一仕事を終えた俺とポンコツは、屋台のおでん屋で祝杯を上げた。
ちなみにここは俺の行きつけだ。店構えはボロくて汚いが、おでんの味は俺が保証する。

このポンコツを初めて連れてきた時はぶつぶつと癇に障る文句を言っていたが、今ではすっかり常連になっていた。

「ぷはぁ~、一仕事終わった後のビールは最高だな!」
「ですね~。これも全部、頭脳明晰天才エリートの私のおかげです! 先輩はこの私を神のように敬って今日は奢りにするべきです!」

「うっせ! ……と言いたいとこだが、実際お前はよくやってくれたからな。2000円までなら出してやる」

「微妙にせこいです! ここはドーンと札束を出して釣りはいらねぇって格好よく決めてくださいよ! そうしたら惚れますから!」

「やかましいわ、ポンコツ!」
「あう!?」

空のコップで殴って、口煩いポンコツを黙らせる。
国家公務員の給料なんて大したモノではないのだ。むしろ、将来の官僚候補になるエリート様に奢ってほしいところだ。

「そういえば、ポンコツ」

「先輩はいつまで上司をポンコツ扱いなんですか? まぁ、いいです。言って聞くような人じゃないですし」

そのセリフはノシ付けて返してやるぞ、この野郎。

「結局、あのダイイング・メッセージは何だったんだ?」
「あぁ、あれですか……」

青島はダイイング・メッセージについて知らなかった。ということは、あれは犯人側の偽装ではなく、被害者が死の直前に残したもので間違いないということだ。まぁ、状況的にもその可能性は高かったけどな。

ダイイング・メッセージ自体には証拠能力は低い。犯人を示す手掛かりではあるが、アリバイトリックを暴いた時点で犯人は確定できた。そのため、あのダイイング・メッセージは事件解決に全く関わっていなかった。


「別にいいじゃないですか。謎が残っていた方が面白いってこともありますよ。っていうか、自分が解いてください。一応あれは青島と浩司していますが、それを説明するのが面倒です。そもそも先輩の脳味噌で理解できる訳ないですし、無駄とわかっていることをするのは……」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで説明しやがれ。じゃないと、奢らねぇぞ」

「えぇ~! もう仕方ないですね。あっ、その前に、おじさん! がんもどきと卵と竹輪です~!」
「俺は大根とつみれと厚揚げ。あと、熱燗な」

「あいよ!」

店主は気前よく返事して、注文の品を俺達の前に出した。しっかりと味が染み込んでいて、香りがその辺のコンビニにあるような粗末な物と格段の差があった。

「あのダイイング・メッセージ、解読すると青島と浩司の職業を示すんですよ。私はそこから二人が怪しいと思ったんです。複数犯の可能性を示してあっただけでも、あのメッセージには意味がありましたよ」

「ほぉ~」
熱燗をちびりながら適当に相槌を打った。

「あの欠けた部分に入るのは、おそらくTCPというネットワーク用語です。TCPというのは、簡単に言うと通信の信頼性を高める通信規定です。もう一つUDPというモノもあるんですが、こっちの説明は割愛します」

……異国の言葉だ。
何を言っているか、さっぱりだぞ……。

まぁ、いいや。適当に聞き流して酒飲むか。

かぁぁ~、うめぇ! 大根も相変わらずいい味してんなぁ……。やっぱり、この店のおでんは最高だな。さぁ~て、次は厚揚げを頂くかな。こいつも絶品なんだよな。

「TCP/UDPはコンピュータ内にあるポート番号によって、それぞれのアプリケーションを識別します。パソコンでブラウザとメールで同時に起動しても、通信が混同しないのはTCP/UDPの仕組みがあるからです。
 このTCP/UDPで使用されるポート番号は、あらかじめ使用されるアプリケーションが決められているものもあり(別に違うポート使ってもいいんですけど)、それらのポートをウェルノウンポートと呼びます。
 このウェルノウンポートの110はPOP3というプロトコルが、119はNNTPというプロトコルが、それぞれ予約してあります。POP3の正式名称は、ポスト・オフィス・プロトコル・バージョン3です。そして、NNTPの正式名称は、ネットワーク・ニュース・トランスファー・プロトコルです。
 つまり、POP3は郵便ということで香川浩司を示し、NNTPはニュースということでキャスターの青島香織を示しているんです」

「オヤジ、熱燗おかわりだ。あと、巾着と牛筋な」

「……って聞いてないですね!! 説明しろって言ったのは先輩のくせに!!」

「あァ? 説明するなら日本語で話せ。俺は攘夷派の薩摩男児だ」

異国文化は徹底排除だ。iPadなんざ知らん。この間、ポンコツが自慢していたから少し触らせてもらったが、一分で叩き割ってしまった。

「先輩はいつの時代の人間ですか!? 長州と組んで倒幕運動でもする気ですか!? もう幕府なんてないですよ!!
 はぁ~……、やっぱり無駄になったじゃないですか。だから嫌だったんですよ、説明するの」

「まぁ、怒るなよ。何はともあれ、お前はよくやったよ」

ポンポンとポンコツ警部の頭を撫でてやる。
実際、こいつは本当によくやってくれる。いちいち癇に障ることは言うが、事件に対しては誰よりも真摯に取り込み、関わった全ての事件を早期解決させている。
口煩くて生意気だが、誰よりも刑事として熱い魂を持っている。だからこそ俺も気に入っているだろうな、このポンコツを。

「あ、ああああ……、頭撫でないでください!!」
「何怒ってんだよ、ったく……」

ポンコツは俺の手を振り払うと、何故かそっぽを向いて怒鳴り出した。全く、こいつの行動はいつも意味不明でムカつくな。

はぁ……、やっぱり事件が終わった後の酒は最高だな……。










あとがき

ポンコツ警部は随分と左脳を使いましたw
何だか今もどっかに穴があるような気がして怖いです。
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コメント

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No title
コメント | URL | 2010-06-01-Tue 21:40 [編集]
お疲れ様です^^
すごく楽しかったです+。

そして、すっきりしましたぁーっww
良かったですww
やはり、最後まで自分で解けませんでしたがががw
さすが、秀一様☆って感じです+。
憧れますね…っ←

他の小説も楽しみにしていますねっ^^
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2010-06-01-Tue 21:53 [編集]
夢さん、コメントありがとうございます。

スッキリ出来たらよかったですw
っていうか、後書きで言い忘れたんですが、
ポンコツは「謎解き」重視にしてあります。

たまには真面目にミステリを書いてみようと思って、
人間ドラマ的な話は割とカットしてます。
もしかしたら、その辺が淡泊過ぎるかなーなんて思ったりしてたんで、
そう言ってもらえて安心しました。
No title
コメント花舞小枝の春 | URL | 2010-06-03-Thu 00:34 [編集]
コメント遅れてしまいましたが……!!
うわぁぁぁいありがとうございましたっ☆☆
そして、リク叶えて下さってありがとうございました*^^*
あの暗号、絶対そのへんの人間じゃわかりませんねwww
そして、私の推理は大ハズレです。
なにせ「コイツが犯人だ!」って思った人間、前回お亡くなりになっているので^^;
はわぁ、、、スッキリ☆
ありがとうございましたっ*^^*
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2010-06-03-Thu 01:36 [編集]
春さん、コメントありがとうございます。

あの暗号は微妙に反則っぽい気がしたんで、
別に解かなくても、犯人がわかるようにしときました。
一応、謎を解くための鍵もダイレクトに書いときましたがwww

久し振りに左脳を使う作品が書けて、
こちらこそお礼を言いたいです。ありがとうございました☆
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