作家志望の不定期ブログです。
無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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第十四夜 太陽のように
2012-09-05-Wed  CATEGORY: 小説:メアのゆりかご
・Prologue
・第一夜 白夜の世界
・第二夜 異世界の現実
・第三夜 届かない想い
・第四夜 絶望と覚醒
・第五夜 友と共に生き延びるために
・第六夜 夢の最果てで
・第七夜 忘却に潜む闇
・第八夜 愛ゆえに
・非現実の座談会
・第九夜 瞳
・第十夜 真城礼夢
・第十一夜 絶望
・第十二夜 心愛
・第十三夜 絶対の意志は朝日よりも眩しく



メアのゆりかご
第十四夜 太陽のように



それは暗い記憶の断片にある殺人方法の一つだった。
いかにして、あの圧倒的な暴力を振るう男を殺せるか。
親戚の男に虐げられていた幼き日のレオノーラは、そればかりを考えていた。

空想の中での殺人、それだけが理不尽な境遇の中で出来る唯一の慰めだった。だが、もちろん力ずくで勝てるとは想像の中でも出来なかった。殴られ、蹴られ続ける日々の中で力の差は、文字どおり痛感させられていた。
暴力においては絶対に勝てない。
そう強く刷り込まれたレオノーラは、暴力以外の方法で殺すことを考えた。腕力に頼らなくても可能な殺害方法。

それだけを考えて思い至ったのが、毒殺だった。

ただ知らないだけで人間を死に至らしめる有毒物質は、当たり前のように日常に潜んでいる。レオノーラが特に興味を持ったのは有毒植物だった。

親戚の男の家で出来る唯一の娯楽は、庭いじりくらいしかなかった。母が元々ガーデニング好きであり、レオノーラは庭先でよく植物の話を聞かされていた。美しい植物の話がほとんどであったが、時として植物の危険性についても詳しく聞かされていた。

だから、自然とレオノーラの中には植物毒の知識が溜まっていった。
その知識が現実で役に立ったことは一度としてなかった。憎き親戚の男はもう死んでしまったのだから。もっと早く自分があの男を殺していれば、母が手を汚すことはなかったのに、と悔やむ日もあった。

だが、今この瞬間においてその知識があったことを感謝した。殺すために学んだ有害な知識であったが、今も忘れずにいたことをよかったと思えた。

知識は明確なイメージを生み出す糧となる。
明確なイメージは強固な幻想となり、悪夢を殺す刃となる。

「……な! 何をしたのですか! この私に!」

メイアーハーツは痙攣しながら膝を突き、忌々しげにレオノーラを睨み付けていた。絶対強者として君臨してきた悪夢王にとって、動きたくても動けない、という状況が信じられなかった。

「Every rose has its thorn. However, does my rose have poison? (美しい薔薇には棘がある。だけど、私の薔薇には毒があるのよ?)」

「……毒! ……ですか?」

「正解よ。そういえば、一度も名乗ったことがなかったわね、私の能力……」

レオノーラは毅然とした表情で涙を拭い、美しい金髪をかき上げた。そして、膝を屈した愛しい人の仇、メイアーハーツを見下ろしながら宣言した。

「死に誘う茨姫の眠り(スリーピング・ビューティ)」

茨の幻想は母から習ったガーデニング知識から生まれた。
そして、レオノーラのガーデニング知識は植物毒に繋がっていく。

死に誘う茨姫の眠り、この能力は薔薇や茨を生み出すだけのモノではなかった。薔薇はあくまで副産物であり、本来はレオノーラの知識にある様々な植物毒を生成するための器だった。

しかし、毒でジワジワと殺すよりも茨鞭で叩き伏せる方が早かったため、毒の能力を使う機会がなかったのだ。また、武曽戦においても毒の能力は使用していたが、武曽の異常な再生力によって強力な毒殺能力が全く無意味だったのだ。

故にこれまでレオノーラの能力が本領発揮されることはなかった。だが、ここにきてようやくスリーピング・ビューティの本来の力が日の目を見ることになった。

「期待はしていなかったけど、人間に効く毒が効いて助かったわ。……まぁ、少し遅かったけどね……」

あともう少し、あともう少し早く毒が効いていれば、近衛真が死なずに済んだはずだった。それだけがレオノーラの心残りだった。

「この私に! 一体何の毒を!」
「教えてやる義理はないわ。冥土の土産なんて趣味じゃないしね」

ちなみに、レオノーラが能力によって生成した毒の主成分は二つだった。トリカブトに含まれるジテルペン系のアルカロイドのアコニチン。ジギタリスに含まれる強心配糖体のジギトキシン。どちらも心臓に強く作用する毒素だった。その他、同様の作用を持つ毒素を幾つも調合した特別なものだった。

「さて、ここで一つ質問してもいいかしら、メイアーハーツ?」
「な! 何でしょう?」

「貴方ってこの心臓そのものなんでしょう? だったら、やたら固い貴方に毒を注入しなくても、こちらの方に毒を注ぎ込んでも効果があるのかしら?」

レオノーラは赤き地面を爪先で突きながら、メイアーハーツに尋ねた。
今、彼女が立つ大地こそが悪夢王の心臓。あまり巨大過ぎて忘れてしまいそうになるが、この広大な大地とメイアーハーツは同一の存在だった。故に、この大地に毒素を注入すれば一体どうなのか、とレオノーラは聞いているのだ。

答えを聞くまでもなく、レオノーラはすでに行動を起こしていた。今の問いに対する答えは、メイアーハーツの表情変化だけ充分だった。

それはつい先程、真に向けた殺意の表情と同じだった。
近衛真と本気のメイアーハーツの戦いはまさに圧巻だった。レオノーラの力では当然、本気のメイアーハーツと互角に戦うことは出来ない。

出来るのは、可能な限り、茨姫の毒をばら撒くこと。
そしておそらく、生き残ることは出来ない。

茨姫の猛毒がいずれメイアーハーツを殺すとしても、死に至るまでタイムラグが生じてしまう。今のメイアーハーツを相手に何秒も生き残ることなど出来ないだろう。

(……あとは任せるわよ、小夜子、音緒……)

レオノーラは全力で駆けた。
死に至る猛毒を含んだ茨は次々と大地を貫いていく。無数の茨を放ちながら、レオノーラは赤き大地を必死で逃げた。
しかし、恐ろしい怪物の魔の手が少女を捕らえるまで、あと数秒……。










ナイトメア領域にはあらゆる悪夢が集う。
そこには悪夢にとっての都合の良し悪しはなかった。
悪夢の欠片であるナイトウォーカーは、自身が悪夢であっても高度な存在になればなるほど高い知性を持つ。メイアーハザード級の怪物ともなれば、自身の身体の中でさえ複数の自我を持つほどになる。感情を持てば、当然自らが夢を見ることもある。悪夢自身が悪夢と見ることさえあるのだ。

ナイトメア領域とは夢見る存在の、全ての悪夢が沈殿する場所。故に、その悪夢はナイトメア領域の奥深くに存在していた。

真城白亜が見せた悪夢。それは、悪夢にとっての悪夢だった。

数年前、ナイトメア領域で実際に起こったある出来事の記憶だった。全ての悪夢達が恐れ慄いた史上最大の事件。

とある悪夢が一人の少年を倒すためにナイトメア領域に引き込んだ。その少年は現実世界において最強に近い魔法の力を持っていた。様々な敵を倒し、まだ少年としか呼べない幼い年頃ながら、すでに神話の英雄にも匹敵する活躍を見せていた。
悪夢の目的は、その少年を自らの糧として取り込んで力を増すことだった。しかし、その目論見は泡のように脆く崩壊することになった。

ナイトメア領域に囚われたその少年は、あまねく絶望の闇に全く動じることなく、ナイトメア領域ごとその悪夢を一刀の下に斬り裂いた。

ナイトメア領域ごと、だ。

夢幻界最深層にある悪夢達の領域。その一つの世界を一刀両断にしたのだ。

夢幻界での強さは、すなわち心の強さだ。あらゆる絶望に沈殿するナイトメア領域の中では、どんな勇敢な心を持つ者でも弱さを見せてしまう。
だが、その少年はナイトメア領域の中にあっても、ナイトメア領域そのものを斬るという心の強さを見せた。しかも、その少年にとってナイトメア領域を斬ることは本来の目的ではなく、ただ敵を斬る余波、だけだった。

ナイトメア領域さえも斬り裂いてしまう絶対的な心の強さを持った存在。
悪夢からすれば、そんな強靭な精神を持った存在は、悪夢以外の何物でもないだろう。もし、少年が本気でナイトメア領域を滅ぼす気で戦っていたなら、どうなっていただろうか。それを夢想することは悪夢であっても恐ろしいことだった。

しかし、悪夢にとって幸いなことだったが、その少年がナイトメア領域にいた時間は短かった。少年は一瞬にして勝負を終えてしまい、すぐに現実世界へと戻ってしまった。少年には夢幻の民のような力はなく、夢幻界で自由な活動を出来る力はなかった。だから、その悪夢にとっての悪夢は一瞬で終わった。

しかし、その恐ろしい事件の傷跡は、悪夢達の心に深く残った。
ナイトメア領域の奥深くに残るほどの悪夢となって。

「……むぅ……。これは、あの人の……」
「えぇ、そうよ。音緒が憧れる彼の後姿……」

ナイトメア領域を斬った少年は、不破音緒が絶対的に憧れる英雄だった。
音緒の両親は、とある幻想聖母を守護する役目を担っていた。しかし、強大な力を持った悪夢に出し抜かれ、現実世界への侵攻を許してしまった。

その際、現実化した悪夢を討伐したのが、その少年だった。
音緒はその少年の後姿に最強を見た。

後に知ることだったが、少年はまだ音緒と同い年にも関わらず、この世にある全ての地獄を見てきた。残酷すぎる運命を背負わされ、それと戦う力さえ与えられてしまい、呪縛のように戦うことを義務付けられた存在。

誰があの少年のようになれるのか。
誰もあの少年のようになれるはずがない。

不破音緒はその少年が最強であることを信奉し、その最強を自らの幻想とした。

もっとも、音緒自身もまだ自らの力が模倣に過ぎず、少年の域には達していないと理解していた。そして、今の悪夢を見て、更に痛感してしまった。

「むぅ、やっぱり凄い! あの人はホントに凄い!」

音緒は少年の凄さを改めて実感し、珍しくはしゃいだ声を上げた。

「全くね。貴方が好きになった人は夢幻界でも最強だったわね」
「むぅぅ! す、好きとかそういうのじゃない! 私はただ憧れているだけで、全然そういう恋愛感情は……」

「そうなの? 音緒が彼のことを語る時の目って、まるで恋する乙女そのものじゃない? ラブラブウォンチュ~なんじゃないの?」
「違う! 全然違うの!」

否定する音緒の頬はまるで熟れた林檎のように赤かったが、白亜は敢えてそれを指摘することはなかった。ただ、後で存分にからかおうと心に誓った。そう、この悪夢を終わらせて、平和な日常に戻ったら。

「まぁ、それはさておき。おかげで反撃のイメージが出来たんじゃない、音緒?」

「……うん、出来た」

音緒は力強く頷き、遥か頭上を見上げた。
この暗く淀んだ世界を斬り裂こう。かつてあの少年がそうしたように。
模倣と呼ばれ、借り物と揶揄された力。だけど、揺るがずに信じ続けた想いの力。

それが今、全てを斬り裂く力へ変わろうとしていた。

「音緒、貴方の力は本当に凄い力わ……。人は自分を信じることより、他人を信じる方が難しい。だから、夢幻の民は自らの幻想に命を預ける。絶対的に信じられる自分の幻想に。だけど、貴方はそれを自分ではない誰かに預けた。それを愚かという人も、馬鹿げているという人もいたでしょう。でも、私はそれを素晴らしいことだと思っている」

「白亜姉さん……。そうだね、白亜姉さんはいつもそう言ってくれた」

「だって、それって愛の力だもんね~? 愛こそ最強!」
「あ、愛ッ!? だ、だから違う!」

愛という言葉に過敏に反応して、顔を真っ赤にする音緒。
悪夢が集うナイトメア領域において、この場所だけ雰囲気が違い過ぎた。その空気を察し、一人の男が二人の前に現れた。

「何をしているんだ、馬鹿共……。やるべきことがあるだろう、お前等には」

武曽だった。
彼は自分のすべきこと、出来ることをし終えて、メイアーハザードの体内から抜け出した。そして、白亜達のいるナイトメア領域最深部まで訪れたのだ。

白亜達を見つけ出すのに苦労をするかと思った。しかし、呆れるくらいにあっさり彼女達は見つかった。彼女達の光はどんな闇の中でも目映く輝いていたからだ。

簡単に彼女達が見つかったのはいい。いい意味での計算外だ。しかし、下らない話題で盛り上がっているのを見て、酷い頭痛を感じた。もっとも武曽は白亜の側にいるといつも頭痛を感じていたのだが。

「あっ、武曽。ねぇ、貴方も愛の力こそ最強だと思うわよね?」

白亜は武曽を見るなり、再会の抱擁もせずにそんなことを聞いた。
一応、数年振りの再会なのだが、まるでそんな様子さえ感じない軽い調子だった。武曽はやはり頭痛がして、こめかみを押さえた。

「黙れ、馬鹿。貴様は相変わらず馬鹿だな。少しはナイトメア領域に影響されて、ネガティブになればいいものを……」

「もう! 久し振りの再会なんだから、ラブラブウォンチュ~、マイハニ~♪ って言ってくれればいいのに! 私は武曽のこと、大好きだよ」

「おい、音緒。この馬鹿は放っておいて、さっさとナイトメア領域を斬り裂け」

「む、むぅぅ……」

音緒は苦笑いをしながら頷いた。
懐かしいやり取りを見て、心が少しだけ温かくなった。
白亜と武曽はいつもこんな調子だった。全く噛み合っていないように見えるが、これでも互いにわかり合っている。変なカップルと子供ながらに思っていたが、今も見てもやはり変なカップルだった。

「うん、やっちゃいなさい、音緒。ナイトメア領域を斬り裂いて、メイアーハザードもついでに斬っちゃいなさい。大丈夫、心配しないで。私達が見守っているから」

「茶々を入れるの間違いじゃないか? 貴様は少し黙っていろ、白亜」
「えぇ~? 私の明るさこそがナイトメア領域を脅かす力だって言うのに!」

ある意味それは正しいのだが、シリアス雰囲気はぶち壊されてばかりだった。

「……じゃあ、やってみるよ」

二人の師匠に見守られ、音緒は憧れのイメージに集中した。
たった一度だけしか会ったことのない憧れの英雄。彼はたった一人で現実世界に顕現化した悪夢を倒し、その悪夢に殺され掛けていた音緒の両親さえ救ってくれた。交わした言葉も本当に少しだけ。

だが、それでも音緒は今もあの少年の雄姿をはっきりと思い出せる。
それはただの憧れか、それとも恋慕の情か。音緒自身もはっきりとわからなかった。彼と過ごした時間はあまりに短かったから。しかし、それでも音緒の中でとても大きな存在であることには違いなかった。

最初にイメージするのは、いつもあの勇敢な後姿だった。
音緒は両腕を掲げ、心の底から敬愛する英雄のイメージを解放した。

「……励起せよッ!!」

深淵の闇さえも食らい尽くす漆黒の太陽が生まれた。









死闘は天地を揺るがした。
悪夢王メイアーハザードとの戦いは熾烈を極めた。
私と礼夢は互いの存在があったからこそ、心を強く持ち続けることが出来た。きっと一人きりでは戦い続けることは出来なかっただろう。圧倒的な脅威を前にして、立ち向かう幻想を抱くことがどれほど難しいか。

心を強く持ち続けるためには、一人だけじゃ足りない。
大切な人が隣にいてくれるから、人は強くあろうと想い続けることが出来る。

「ぐぉぉぉ……」

激闘の末にメイアーハザードの巨体が膝をついた。それだけで黄金の大地に地震のような巨大な振動が響いた。

私達との戦いによるダメージもあるだろうが、メイアーハザードは戦闘中に急に苦しみ出した。その苦しみには私達との戦い以外の要因があるかもしれなかったが、死闘の最中には考える余裕もなかった。

「はぁ……、はぁ……」
「……大丈夫か、小夜子」

疲労で崩れ落ちそうになった私の身体を、礼夢がさっと支えてくれた。
ちょっとだけ嬉しい。こんな事態ではなければ、このまま礼夢の腕の中で眠りたかった。だけど、もう少し頑張らないといけない。
まだ、メイアーハザードは生きている。戦いは、この悪夢はまだ終わっていない。

私達は悪夢王を倒して、誰一人欠けることなく帰る。
夢幻界での死は、現実の死ではない。悪夢を終わらせれば、ナイトメア領域から抜け出すことが出来れば、私達は元の世界に戻ることが出来る。メイアーハザードを倒せば、当たり前の日常に帰れるのだ。

「ぜぇ……、ぜぇ……、人間風情がァ……」

「人間の力を借りなきゃ現実世界にも出られない奴が偉そうに人間を見下しているんじゃないわよ! 私達は信じ合うことでどこまでも強くなれる! 想いを抱き続ければ、空だって飛べるのが人間なのよ!」

「黙れ! その想いを打ち砕くのが悪夢の力なのだ!」
「打ち砕けるなら、打ち砕いて見せろ!」

礼夢の二挺拳銃から紅蓮の弾丸が放たれ、膝をつくメイアーハザードに直撃した。

怒涛の勢いで放たれる炎の弾丸はインパクトの爆発だけで大地を抉り、天までを焼き尽くしていく。この世界そのものさえ焼き尽くすような破壊力だ。

礼夢の力は武曽と戦った時とは比較にならないほど強くなっていた。彼の力は私との結びつきが強く関係している。私が礼夢を信じれば信じるほどに礼夢は強くなる。

「さぁ、終わらせてやる!」
「ふざけるな! 我は悪夢王メイアーハザード! たかが人間ごときに後れを取るものか! 幻想聖母だけは生かしておくつもりだったが、もういい! 殺してやるぞ、幻想聖母! 貴様の代わりなど、探せばいくらでもいる! あぁ、殺す殺す殺す! 殺してやるぞ、幻想聖母ォォォ!!」

爆炎の中からメイアーハザードが飛び出し、巨大な拳を叩き付けてきた。
これまでとは比較にならない殺意の一撃。衝撃は地平の先まで届き、大地には半径数十メートルにもわたる巨大なクレーターが出来た。私達はそのインパクトの衝撃だけで吹き飛ばされた。

宙に投げ出された私は、礼夢に抱えられて何とか無事に着地した。

「な……、なんて威力……」

今の一撃はさすがに背筋が凍った。
一片の容赦もない殺意を向けられるのは、これが初めてかもしれない。
メイアーハザードは幻想聖母の力を使って現実世界へ顕現することを目的としている。故にこれまで誰も私を本気で殺そうとする者はいなかった。しかし、予想外の苦戦を強いられたメイアーハザードは、ついにその目的を捨てて私を殺しに来た。

怖い……。
本当の殺し合いになるんだ……。

「震えるな、小夜子。お前は俺が守る。何があろうと、絶対にだ。俺はお前を守るために生まれ、今もその意志を貫く」

「礼夢……」

ぎゅっと肩を抱かれ、恐怖が嘘のように消えていく。
礼夢ならば絶対に守ってくれるという信頼。そして、私の信頼がそのまま礼夢の力に代わる。

「吠えるな、幻想の分際で! いかに貴様等が足掻こうと、我が本気でお前達を排除する気になれば、全ては一瞬で終わる! 今、お前達が立つ大地も、見上げる空も全て我の一部! その全てが敵であり、お前達を殺す刃だ!
 さぁ、終わらせてやろう! この世界そのものでお前達を押し潰してくれる!」

悪夢王の咆哮と共に大地が震撼する。
地表は私の幻想によって支配されていたが、それを振り払うような壮絶な勢いで大地が猛っていた。これはもう地震という規模の揺れではない。地面全体が噴火する火山のようだった。

駄目だ、私の力だけでは抑えきれない……。
それに、遥か頭上にあったはず灰色の空がまるで吊り天井のように降りてきていた。

まさか、本気でこの世界ごと私達を潰すつもりなのだろうか。

「ッの野郎が! させるか!」

陽光を貫く破壊の小銃を頭上に構え、大出力のレーザーを放った。
礼夢の一撃は灰色の天井を容赦なく蒸発させるが、それ以上に押し寄せてくる質量の方が大きかった。一気に私達の方へと詰め寄ってきた。
メイアーハザードはすでに灰色の空へと一体化し、私達を嘲笑っていた。

「あっはははは! さぁ、死ね! 死ね死ね死ね、人間共め! 予想外に手こずらせおって! 貴様等がどんな抵抗をしても無駄だ! たとえ、我が心臓を殺しても、我の脳に穴を開けようと、この悪夢集積体である我には通じぬ! さぁ、絶望に苦悩して悪夢に溺れろ、幻想聖母!」

「させるかよォォォォォォッ!!」

私達を押し潰そうとする肉壁を礼夢が支えた。
圧倒的な質量であるはずなのに、礼夢は私を守るために灰色の空を全て受け切った。私も守られているだけなんて嫌なので、礼夢と一緒に両腕を上げて、押し寄せる天井を支えた。

凄まじい勢いで迫ってくる肉壁だったが、支えきれないほどの勢いではなかった。というより、一気に潰そうとしているのではないようだった。灰色の肉壁はまるで嬲り殺しにするようにじわじわと詰め寄ってきていた。

私達の周囲は完全に肉壁に呑み込まれていく。もはや押し潰される寸前だ。
だが、それでも私達は決して屈しない。怖くて泣きたいけど、それでも礼夢が諦めずに戦っている間は、私だって諦めない。

「くくく……。さぁ、あとどれくらい保つ? せいぜい足掻け、人間よ。降伏したいのなら、いつでも受け入れるぞ?」

「こ、このぉ……。私は絶対に諦めないんだから……」
「そうだ、俺達は絶対に自分の想いは諦めない!」

灰色の肉壁に圧し潰されそうになりながらも私達は必死に足掻き続けた。
この程度の劣勢で心が折れるというのなら、私はとっくの昔に諦めている。絶望的な状況なら、もういくらでも直面してきた。

怖かった。泣きたくなった。
だけど、それでも助けてくれる仲間達がいた。今度は私がみんなを助ける。

ここで諦めてしまったら、みんなを救うことは出来ない。だから、私は恐怖に怯えても、絶対に諦めることだけはしない。

「そのまま潰れろ、幻想聖母ォォォッ!!」
「俺の小夜子に手を出そうとしてんじゃねぇぞォォォッ!!」

礼夢の怒号が迫りくる悪夢王の肉壁を震わす。
全身から灼熱の業火を放ち、礼夢はまるで小さな太陽のように真っ赤に燃え上がった。

迫りくる絶対質量を押し返す強固なる意志と力。
全てを焼き尽くす真紅の太陽。

……っていうか、礼夢ってば、さりげなく俺の小夜子って言わなかった? まったくもう……。

「小夜子は俺が守る! 俺はそのために生まれた! 初めて俺が俺であることを許されたこの戦場で負けられるか!」

「所詮は思い描かれただけの幻想に過ぎない分際で自らの存在を語るな!」

「幻想にだって意地があるんだよ! 俺は生まれた目的さえ達成できずに終わるつもりはねぇ! いや、違う! ただ、守りたい女がいる! だから負けられねぇ! 消えろ、メイアーハザード! 小夜子を泣かしたてめぇを絶対に許さねぇ!」

太陽が爆発する。
それは朝日のような鮮烈な光、闇を浄化する鮮烈なる紅色だった。
大いなる光は澱んだ灰色の闇を薙ぎ払っていく。世界そのものを照らす真っ赤な太陽は、どれだけ強く光り輝いても決して私を傷付けない。
赤い閃光によってメイアーハザードの脳内には巨大な空洞が形成された。

「はぁ……、はぁ……」
「……お、おのれ……。たかが幻想の分際で……」

激しく消耗したメイアーハザードの声が周囲から漏れてきた。先程のように人間型の実体は現さず、灰色の脳細胞と一体化した状態で私達を見下ろしていた。

「どうした? 来いよ、悪夢王? 俺は何度だってお前を焼き尽くしてやるぞ! さぁ、来い、メイアーハザードッ!! 今度こそ終わらせてやる、この悪夢をッ!!」

「舐めるな、我は世界中のあまねく悪夢を統べる王だぞッ!! 一人の女から生まれた幻想風情が我に勝つ気でいるのかッ!! その傲慢、万死に値するッ!! 貴様はここで跡形もなく……、……んッ!? 何だ、この強大な気配はッ!? これはあの時と同じ……、あの少年がまた……?」

突如、メイアーハザードが動揺の声を上げた。
強力な気配といっても私達には何も感じられなかった。人間型の実体がないため表情は見えなかったが、メイアーハザードの動揺は相当なものだった。目の前にいる私達さえ無視して、メイアーハザードは何か怯えているようだった。

一体、メイアーハザードは何を感じ取ったのだろうか。
そして、それは次の瞬間に起こった。

……斬ッ!!!

灰色の世界を縦断する漆黒の刃。
それを刃と断定できたのは以前、世界を断ち切る光景を目の当たりにしたからだった。でなければ、黒く巨大な何かが目の前を過ぎっていたようにしか見えなかっただろう。

こんな真似が出来る奴なんて一人しかいない。

「音緒、やったのね……」

友人の乾坤一擲の反撃を見届け、私は静かに微笑みを浮かべた。
直後、灰色の世界は真っ二つに両断された。遥か地平の先、遥か天空の頂きまで、その全てが断裂した。

絶望的なまでに巨大な悪夢王メイアーハザードが一刀両断にされた。





To be continued




あとがき

三人娘の最後の反撃によってラスボス撃破です。
それにしても、礼夢さんは見せ場を取られてばっかりですねwww

メアのゆりかご、あと二回で完結します。
それまでに礼夢は見せ場を取り返せるのか?ww
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コメント | | 2012-09-06-Thu 12:26 [編集]
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No title
コメント羽桜 | URL | 2012-09-07-Fri 00:20 [編集]
レオ先輩まさかの大活躍・・!
そして音緒ちゃん・・可愛い。好きな人いたんだね・・!私、何話目か前、実は武曽さん好きだったんじゃって思ってたことが懐かしいです!w

礼夢さん・・!!いや、活躍してるんですが・・とられますね!w><
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2012-09-07-Fri 13:42 [編集]
羽桜さん、コメントありがとうございます。

礼夢は頑張るんですが……、
やっぱり音緒が一番活躍してますww
レオ先輩もラストで決めてくれましたし、
……あれっ? 小夜子も頑張って……ましたよね???www
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