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無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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第一夜 白夜の世界
2011-11-01-Tue  CATEGORY: 小説:メアのゆりかご
・Prologue



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メアのゆりかご
第一夜 白夜の世界



どうして、こんなことになってしまったのだろう……?
目の前に起きた現実を受け入れられず、ただひたすらに逃げ続ける。
ついさっきまで当たり前に続くと思っていた世界が一瞬にして崩壊し、これまでの常識が全く通用しない世界に変わってしまった。

ここは白夜の世界。
悪夢が現実化したような異世界だった。
私が知っている世界を模していながら、全く非なる悪意に満ちた世界だった。

私達がこの世界に呑み込まれた理由はわからない。だけど、厳然とした現実として私達は今、この理不尽に満ちた悪夢の世界にいた。そこで私達は殺戮と暴虐の限りを尽くす黒い影達に襲われていた。

黒い影。私達の世界には存在しない化け物達。
突如引き込まれた世界の中で出会った悪夢の具象は、容赦なく私達に襲い掛かってきた。黒い影は人間を襲い、食らうためだけの存在だった。黒い影はどこまでも私達を追ってきて、目の前で幾度となく人々が蹂躙される場面を目撃してしまった。

黒い影に襲われた人々が漏らす断末魔を拒むように耳を塞ぎ、眼前に広がる惨劇を否定するように目を瞑り、ただ死にたくないという想いで逃げ続けた。

信じられない、こんな非現実な世界を。
認められない、こんな理不尽な世界を。

だけど、この悪夢の世界に抗うには私達はあまりに無力だった。
一体私達の世界に何が起きたというのか。そして、どうして私達はこの異常な世界に引き摺り込まれたのだろうか。













始まりは突然だった。
あまりに突然過ぎて、理解できなかった。
前後の記憶は完全に欠落しており、気付けば私達はこの世界に放り込まれていた。

「……こ、ここは?」

気が付けば、私はどこか屋外に寝転がっていた。
何故、外で寝ていたのかは全く思い出せなかった。それ以前に意識を取り戻す寸前の記憶が空っぽだった。どうして私はここにいるのか、それまで何をしていたのかは全く思い出せなかった。
脈絡もなく夢が始まるように、私は突然奇妙な世界に放り込まれていた。

世界の異常にはすぐに気付いた。
目の前に広がる大空が、乳白色に塗り潰された。

空が白いと言っても、白雲が空を覆っているのではなく、空自体の色がまるで絵の具で塗り潰されたように白いのだ。私が知っている曇り空とは、似て非なる異質な空だった。

そして、一番奇妙なのは黒い三日月だった。
純白の空を嘲るような漆黒の月。その周囲には星一つなく、月の異様さだけが際立っていた。言いようも知れない不気味さを感じる。

ここは一体どこなのか。そして、どうして私はこんな場所にいるのか。
事が始まる前後の記憶はなかったが、それ以外の記憶はしっかりとしていた。当然、自分が誰なのかははっきりとわかっている。

私の名前は、国崎小夜子。
霞ヶ原高校一年。陸上部に所属していて、長距離走の専門。趣味はスポーツ全般、特に走ることが大好きだった。好きな物は、お汁粉。嫌いな物は、掃除と数学。

意識を整理して少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。そして、周囲の確認さえ忘れていたことにようやく気付いた。

「ここは、……学校?」

辺りを見渡して、私は愕然とした。
そこは見慣れた私の学校、霞ヶ原高校だった。

私が寝ていたのは、陸上部が練習場としている周回トラックの真ん中だった。ウチの高校は陸上の強豪校なので、グラウンドも相当な広さだった。私はそんな広大なグラウンドの中心で一人寝ていたらしい。

……私は目を覚ます前、一体何をしていたのだろうか?
服装を確認すると、何故か高校の制服だった。学校にいるのだから制服なのは不思議ではないが、そもそも学校にいること自体が不思議だった。


だって、私は…………。
…………?


今、何かおかしなことを考えた気がした。だけど、その考えを思い返すことが出来なかった。まるで私自身が考えることを拒絶しているような感覚に襲われた。
何か強烈な違和感を覚える。この違和感の正体は何なのだろうか。

「……まぁ、いっか」

面倒になったので、思考することを放棄した。
ヒョイっと身体をバネのようにして飛び起き、軽く腕を伸ばしてストレッチをした。やはり、訳のわからないことを考えているより身体を動かしている方が気持ちよかった。

改めて周囲を見渡し、ここが私の知っている霞ヶ原高校と寸分違わないことを確認した。それと、グラウンド内には誰もいなかったことも。

空を見上げると、不気味な黒月が嘲りの笑みを浮かべていた。

あの月を見ていると、ここが嫌でも別世界だと思い込まされてしまう。普通なら、別世界にいるという発想ではなく、空に異常が起きたと思うはずだろう。しかし、何故かあの月にはここが異世界であると思わせる強い暗示のような力がある気がした。

「それにしても、誰もいないなぁ……。まさか、この世界には私しかいないの……?」

嫌な想像が脳裏を過ぎり、背筋がブルッと震えた。
こんな意味不明な場所で一人きりなんて絶対に嫌だった。

「……とりあえず人を探そうかな」

私はそう決心をして、グラウンドから校舎に向けて歩き出した。陸上競技用の周回トラックを抜けて、階段を上っていく。高い所まで登ると視界が変わり、見える景色も変わった。

すると、案外あっさりと人影を見つけられた。校舎と体育館を繋げる通路に人影が見えた。その人影は何かを探すようにキョロキョロと見渡していた。

……よかった、私は一人ではない。
人影を見つけて、私は安堵の息を漏らした。

「えっ……? 何、あれ……?」

その安堵の息が凍り付いたのは、人影が人間ではないと気付いてしまったからだ。

それを何と形容すればいいのかと問われれば、黒い影としか言えないだろう。地面に映るはず影が這い上がり、本来いるべき人間の位置を奪って地上に立っていた。

黒い影の首がグニャリと百八十度曲がり、私を発見した。人間では有り得ない首の動きだった。首と共に身体も半回転して、私の方に振り向いた。その動作が完全に人間の可動範囲の限界を超えた行為なのは明白だった。


「クカカカ……」


それは黒い影の笑い声のようだった。人の声に近いが、何かが根本的に違う不気味な違和感がある声だった。

明確に感じる悪意。そして、それ以上に感じるのは歓喜だった。
あの黒い影は、まるで獲物を見つけた獣のように歓喜していた。
いや、獣は獲物に気付かれないよう密かに行動をするものだ。たとえ、歓喜のような感情があったとしても、それを獲物に見せるような真似は絶対にしない。

害意を孕んだ歓喜を見せることは、獲物を必要以上に恐怖させることだ。そんなことをすれば、狩りの成功率を下げるだけだ。獣にとって狩りは生存行動であり、そのようなリスクを取ることは絶対にない。何より無駄としか言えない行為だ。

黒い影の行動は獣的ではない。
無駄な行動を見せて、余裕を楽しむのは人間的な行動だ。
今から貴様を襲う。せいぜい怯えて逃げ惑え。逃げたところで無駄だがな。

あの黒い影はそう言っているような気がした。そして、それを理解した瞬間、私は無我夢中で逃げ出していた。黒い影は当たり前のように私を追ってきた。周囲に私以外は誰もいないのだから狙われているのは当然私だった。

追われる理由は皆目見当もつかなかった。
ただ、あの黒い影に捕まればロクな目に遭わないのは確かだった。
黒い影は明白な悪意を孕んでいた。理屈ではなく生存本能がそう感じた。未開の森で大型肉食獣と鉢合わせたかのように、逃げなければ殺される、と問答無用で理解した。

怖い……。
怖い怖い……。
怖い怖い怖い……。

私はペース配分など無視して、死に物狂いで逃げ続けた。
心臓が爆発しそうだったが、それでも今は全力で走らなければならなかった。振り返るまでもなく黒い影が近付いているのがわかった。

ズズズ……、とまるで地面を這うような音が絶えず後方から聞こえてきた。

どのような挙動をすれば、そんな音が出るか気になったが、振り返る余裕などなかった。どれだけ全力で走っても音は次第に近付いてきて、恐怖と絶望が膨らんでいくのがわかった。もうすぐ背後まで迫っている。それなのに、黒い影はただ私の後ろに張り付き続けていた。

「クカカカ……」

すぐ耳元から声が聞こえた。
悲鳴と涙が零れそうになるが、歯を食いしばって限界以上に足を速めた。
この黒い影はもう私のすぐ後ろにいるのに、獲物である私に襲い掛かろうとはしなかった。無論、このまま襲われないなんてことはないだろう。

黒い影は遊んでいるのだ。
私が力尽きる瞬間まで追い続け、無様に命乞いをする姿を嘲笑いながら、――――――。それ以上の想像は、脳が思考をすることを拒否した。考えうる可能性は幾つもあったが、具体的にそれをイメージしてしまえば、もう心が折れてしまう。

鉄筋コンクリート製の新校舎沿いを疾駆し、そのまま歴史を感じさせる古めかしい校門を目指した。校門の先は桜並木になっていて、そこから市街地に続いていた。とにかく、こんな化け物がいる学校から逃げ出したくて校門を目指した。

しかし、校門に近付くにつれて気付いてしまった。

本来あるべき校門の先の桜並木がなかった。
何故……、どうして……?

校門から先は、あの不気味な空と同じように白一面に染まっていた。それ以外は何もなく、校門から先に出たらどうなるかさえ想像できなかった。

あそこに飛び込む勇気は湧かなかった。だが、他にどこに行けば……。
思考に迷いが生じた瞬間、ニュルッと何かが右足に絡み付いた。続いて左足にぬめった何かに掴まれた。両足の自由を奪われ、私はそのまま地面に転倒した。
かろうじて顔面を庇うことは出来たが、それだけだった。

両足を掴まれた。
……誰に?

そんなことを考えるのは愚問だった。今この場には私と、黒い影しかいなかった。ガシッと掴まれた両足はまるで万力で締め付けられているようだった。異常な力で掴まれており、抵抗のために暴れることさえ出来なかった。

もう逃げられないと悟る。
恐怖によって全身は小刻みに震え、ガタガタと歯が打ち鳴り始めた。
黒い影は私の両足を掴みながら身を乗り出し、私の耳元まで顔を近付けた。腐敗した死肉のような吐息が顔に掛かり、猛烈な吐き気が込み上げた。

「クカカカ……」
「あっ……、あぁぁ……」

私はその声に引かれるように振り返ってしまった。
眼前には黒で塗り潰された楕円の顔らしきモノがあった。眼も鼻も凹凸のない顔だったが、パカァと開いた口だけはあった。そこから血生臭い吐息が漏れていた。そして、その口には真っ赤な肉片が幾つもこびり付いていた。

どうして振り返ってしまったのだろう。こんな間近で黒い影の顔を見て、この口にこびりついた肉片の存在など知らなければ、これから行われる惨劇を想像せずにいられたはずだろう。
いや、見ても見なくても同じだったろう。どのみち何をされるかは、これから私自身が味わうことなのだから。

「いや、いや……、た、助けて……、助けて……」
「クカカカカカカカカカ……」

黒い影はその不気味な口を大きく開き、腐臭を撒き散らしながら私の頬を舐めた。ビクンッと震えた私を見て、黒い影は愉快そうな笑みを浮かべた。

な、嬲られている……。

追われている時から予感はあったが、この化け物は獲物を怯えさせることを楽しんでいた。殺されるだけでは済まない。まるで人間を玩具のように嬲って、散々怯えさせて恐怖させて絶望させてから、ムシャムシャバリバリと食ってしまうのだ。

ついに我慢していた恐怖の臨界点を突破した。

「い、いやァァァァァァッ!! 嫌々嫌々……、助けて、助けてッ!! 止めて、止めて、止めてェェェェェェッ!! 嫌ァァァッ!! お願い、殺さないでェェェッ!!」

「――クカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!」

黒い影がこれまで一番大きな声で笑った。
恐ろしい怪物から逃げようと必死に暴れるが、黒い影の力はあまりに強かった。振り払うことなど出来るはずもなく、無理に抵抗をすれば骨が折れてしまいそうだった。

逃げられないのはわかっている。
だけど、逃げなければ徹底的に嬲られて殺されるだけだ。
どうして、こんな化け物に襲われる羽目になったっていうの……?

突然訳のわからない世界に放り込まれ、正体不明の化け物に蹂躙される。そんな理不尽があっていいのか。昨日までの当たり前の日常はどこに行ってしまったというのか。

「なッ……!? い、嫌……、止めてッ!!」

私の両足を掴んでいた黒い影の手が、いつの間にか私の胸部と臀部を舐めるように撫で回していた。制服の隙間から手を入れられ胸を揉みしだかれ、スカートの下に潜り込んだ手はいやらしくお尻を撫で擦っていた。
まさか欲情しているというのか。私はこんな人間ですらない怪物に犯されるのか。

嫌……、絶対に嫌だ……。
ぶわっと恐怖と嫌悪感と噴き出し、半狂乱になって暴れた。殺されるだけならまだしも、女の子として一番大事なものまで奪われるなんて耐えられない。おぞましい化け物に穢されるくらいなら死んだ方がマシだった。

だが、抵抗が無意味であることはすでに思い知っていた。
どれだけ必死に足掻いても黒い影は振り切れず、私が泣きながらもがく姿を見て黒い影は歓喜の雄叫びをあげていた。こんな屈辱と恥辱は他にないだろう。

こんなの、こんなのは絶対に嫌だッ!!
誰か……、誰か助けてよッ!!
お願い、――――ッ!!


「フギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……えっ?」


何が起こったのか一瞬では理解できなかった。
鼓膜を破らんとする不快な悲鳴が耳を衝き、同時に私に圧し掛かっていた黒い影の重量が突如消え去った。視線を上げてみると、そこには腐臭を撒き散らすおぞましい黒い影は跡形もなく消えていた。

一体、何が起こったのかと理解する必要はなかった。
とにかく助かったのだ。今はそれだけで充分だった。
心臓が壊れそうになる恐怖から解放され、私は全身を弛緩させて、その場で大の字になった。しばらく地面に寝そべっていたが、いつまでもここにいられなかった。私は疲れ切った体に鞭打って、のろのろと立ち上がった。

怪我がないか確認するために自分の身体を見てみると、黒い影に掴まれた両足にくっきりと手形が残っていた。気持ちが悪かったが、放っておけば手形は消えるだろう。

「……誰かが助けてくれたの?」

周囲を見渡しながら、私は期待した気持ちで呟いた。
しかし、誰の姿も見当たらず、校門付近は完全な無人だった。
誰かが助けてくれたのは間違いないはずだが、周囲には影一つなかった。先程まで私を襲っていた黒い影さえ消えていた。あの影の怪物がいないのは構わないが、私を助けてくれた何者かの姿もないというのは、どういうことなのだろうか。

まさか、自分の中に秘めたる力が覚醒して黒い影を倒した……なんてことは有り得ないだろう。っていうか、今の発想もない。中二病なんてとっくに卒業したのに。馬鹿らしい考えに苦笑してしまう。

とにかく誰かが助けてくれた。それだけで救われた気分になった。
現状わからないことだらけで危険も多いが、助けてくれる存在がいたのは心強かった。何故、姿が見えないのかは気になるが、ひとまずその人物を探そう。

「……っと、その前に……」

校門の近くまで歩み寄り、その向こう側を見つめた。

白い境界。
他に形容すべき言葉が見つからなかった。

壁のような物質的な感じにも見えるが、手を伸ばせば通り抜けられそうだった。だからといって、この先に足を踏み出す気にはなれなかった。それは嫌悪感から来る感情だけではなく、何か本能的なモノでここから先にはいけないと感じられた。

やっぱり、この世界は異常だ……。

今更ながらそう痛感した。白に塗り潰された夜空、黒い輝きを放つ三日月、人間を襲う影の化け物。そして、この異世界の中にあるのは、学校だけ。

「一体何なの、この世界は……?」

理解できないことが多過ぎる。そして、全てのことが突然だった。
私は白い境界を一睨みして、先程自分を助けてくれた人物を探すために校舎を目指した。目指そうとしたが、その歩み足はすぐに止まってしまった。

「さっきまでは何もいなかったのに……」

それは間違いなく確認した。
確かに数秒前までは誰もいなかったし、何もいなかった。
予想外だったのは、黒い影が地面から生えてくる存在だったということだ。

地面に黒い汚泥が広がったかと思うと、その汚泥がニュルリと起き上がって人間の形を取った。幾つも、幾つも、幾つもの汚泥が広がり、そこから無数の影が這い出た。

一体だけで手に負えないのに、今私の目の前にいる黒い影の数は二十を超えていた。しかも、逃げ道を囲むように横一列に並んでいた。
私の背後は校門、その先は白い境界。逃げ道は前方の校舎方面にしかなかった。そこを二十体もの影が道を塞ぐように立ちはだかっていた。仮に校門の向こう側に行けたとしても、簡単に追い付かれることは先程の逃走で思い知らされていた。

だ、駄目だ……。殺される……。

いや、殺されるだけでは済まない。人間としての尊厳、女としての純潔、それら全てを徹底的に嬲られた上で、無残に生きたまま肉を引き裂かれて食われる。

絶望が臨界を突破して、私の身体は鉛のように重くなった。人間一人分の鉛はそのまま崩れ落ちて、近付いてくる死から目を背けるように俯いた。

……その時だった。


「小夜子ッ!!」
「えっ……? この声は……」


耳馴染みのある声が聞こえ、私は弾かれたように顔を上げた。
すると、そこは黄金の閃光に満ちていた。

その圧倒的な光を前にして、私の脳裏にある記憶が蘇った。
あれは以前、家族旅行した時だったと思う。田舎の電車から見た秋の稲田。見渡す限り、黄金に輝く稲穂が広がっており、とても幻想的な光景だった。まるで今目の前に広がる光景と遜色がないくらいに眩い光に満ちた景色だった。

あぁ、これは稲妻か……。
そう理解したのは、黄金の光が消えた後だった。

地上を迸った稲妻は二十体以上いた黒い影達を焼き尽くした。稲妻に焼かれた黒い影達はまるで割れた風船のように弾け、塵一つ残さずに消滅した。

黒い影が全て消え去り、残ったのは一人の女子生徒だけだった。


「……み、実乃里?」
「やほ~♪ 無事でよかったよ、小夜子」


いつもと全く変わらない陽気な笑顔を浮かべていたのは、親友の常盤実乃里だった。
いつもと違うのは雷光を纏った金色の長槍を手にしていたことだった。

「い、今の実乃里が……?」
「うん。なんかね~、こっちの世界に来たら目覚めた♪」

相変わらずの軽いノリだ。それでこそ実乃里だ。
常盤実乃里。私と同じ一年生ながら陸上部の短距離走のエースだ。彼女を一言で表すと、黙っていれば可愛い奴、だった。

髪は肩まで伸ばしたセミロングで、ヘアピンで軽くアクセントを付けていた。二重の大きな瞳で、鼻は少し低めで幼げな顔立ちだった。加えて身長も平均より大分低めのロリっぽい感じ。黙っていれば、とても可愛くて頭を撫でたくなるタイプだ。しかし、何かと騒動を起こすトラブルメーカーであり、口を開けば殴りたくなるタイプだった。

「えっと、実乃里……、もっと最初から具体的に言ってくれると嬉しい」

「うんうん、わかってるよ。でも、私だって正直わからないことだらけだし、小夜子の疑問には半分以上答えられないと思うよ。っていうか、そもそも小夜子がここにいるのが謎だし」

「そんなのは私だって聞きたいよ」

気付いたら、こんな訳のわからない世界に放り込まれていた。しかも、影の化け物には襲われるし。わからないことだらけで、もう本当に泣きそうだった。

「や、そういうことじゃなく…………。まぁ、いっか。とにかく会えて嬉しいよ、小夜子。それに、間に合ってよかった」

電撃で焼け焦げた地面を見つめながら、実乃里は心底安堵したように微笑んだ。

彼女もこの世界にいたのなら、当然あの黒い影達のことを知っているだろう。奴等がどういう存在で、私達に対してどんな非道な真似をするかを。

実乃里の助けが少しでも遅れたら、と思うと背筋が再び震え出した。

「ねぇ、実乃里、貴方の他にもこの世界には誰かいるの?」
「……うん、いたよ」

過去形で彼女は言った。それが意味することは、敢えて説明するまでもないだろう。お願いだから説明させないでほしい。

「まぁ、詳しい話はあとにしよう。あっ、ほら、真も来たし」
「真って……、近衛君?」

実乃里の答えを聞くより早く、視界の端にヒョロっと背の高い男子生徒の姿が見えた。

彼は実乃里の幼馴染、近衛真君だ。実乃里を通じての友人なので、実はそれほど親しい相手ではなかった。
身長は男子の平均より少し高めだが、全体的に細くて読書が似合いそうな文系男子だ。顔立ちも柔和で穏やかな笑顔が似合う女顔だった。女っぽく映るのは、後ろ髪が肩よりも長いことが原因かもしれない。

あぁ、ちなみに実乃里と近衛君は多分両想い。でも、実乃里の方が素直になれないタイプだから、まだ付き合う関係には至っていなかった。近衛君も結構奥手で、全く押さないタイプだから。

「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと追い付いた……」
「近衛君もこの世界にいたんだ」

「はぁ、はぁ……。う、うん……、国崎もいたんだね……。無事でよかった……」

近衛君はナチュラルに私の手を掴み、喜びを露わにする。
こういう風に自然に優しさを表現できるのは彼の美点なのだが、少し悪い言い方をすると八方美人っぽい。多分、彼自身にはその自覚ないだろうけど。

だからこそ、実乃里は少し不満そうだった。好きな男の子が他の女に目を向けていれば、腹立ちもするのは当然だ。

「何、息荒立ててるの? 変態なの?」
「だ、誰が変態だよ! 全く、君って奴はもう……」

「はいはい、お説教は後でね。今は小夜子を安全な場所に案内するのが先でしょ」

可愛らしく頬を膨らませる実乃里。
その反応は微笑ましくもあり、じれったくもある。もっと別の方法で自分の感情を伝えればいいのに、と思う。しかし、素直になるということは恋愛において最大の難点だった。そう簡単にいかないのは十二分に理解しているつもりだった。

実乃里はズンズンと校舎に向かって歩いていき、私と近衛君は慌てて不機嫌そうな彼女の後を追った。





To be continued




あとがき

FC2小説の方も更新しないとなー
と思うのですが、面倒くさいwww
そんな今日この頃。
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