作家志望の不定期ブログです。
無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
スポンサーサイト
-----------  CATEGORY: スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
大きな樹の下で 第十一話「初恋の人」
2011-05-30-Mon  CATEGORY: 小説:大きな樹の下で
やっとこさ更新です。
今回はある意味で急展開かもしんないですw

・第一話「はじまりのはじまり」
・第二話「大きな樹」
・第三話「ワンコの気持ち」
・第四話「タマヒメ」
・第五話「一年八組の愉快な仲間達」
・第六話「君の旋律を聞きたい」
・第七話「はじめてのライバル」
・第八話「着ぐるみ理論」
・第九話「オムライス」
・第十話「夢幻」



大きな樹の下で
第十一話「初恋の人」


珠樹の演奏会もとい、あがり症克服の訓練を終えた頃にはすっかり日が落ちていた。僕は珠樹を家まで送り、スーパーで食材(割引品狙い)を買い込んでから帰路に就いていた。

小豆に今日の夕飯は何がいいかとメールで聞いてみたら、胡桃に捕まって泊まることになったそうだ。小豆を他の家に預けることに保護者として若干の不安があるが、あまり厳し過ぎるのもよくないと思って了承することにした。

ただ、明日小豆まで着ぐるみになっていたらどうしよう?
……まぁ、その時はその時か。


ひとまず小豆の心配は置いといて、今日の夕飯はどうするべきか。食材を買い込んだばかりなので色々と選択肢はあるが、小豆がいないので日持ちしない食材を使った手抜きメニューにしようか。もしくは新メニューに挑戦してみるのもいいだろうか。
夕飯のことであれこれ考えている間に、いつの間にか我が家に辿り着いていた。

が、何故かすでにウチに明かりがついていた。

小豆は帰ってきてないはずだ。ということは必然的に他の幼馴染二人組が来ているということか。ウチの合い鍵を持っているのは、あの二人以外にいないはずだから。

日向朝人とシャルロッテ・バッハシュタイン。
小豆と同じく子供の頃から一緒の幼馴染。中学の頃までは四人一緒にいるのが当たり前だった。だけど、シャルは僕達と一緒に高校には行けなくて、登下校の時とかに不意に寂しく思うことがあった。

って、まだ未練があるのかな……?
ふと湧いてきた暗い感情を振り払い、僕は自宅の玄関を開けた。すると、見覚えのある赤い靴が目に入った。シャルの靴だ。日向の靴が見えないということは、彼女一人なのだろうか。

……ちょっと、これは不味いかな。
僕はボリボリと頭を掻き、困惑の溜め息を漏らした。ただ、ここで逃げる訳にもいかないので、家に上がってリビングに顔を出した。


「おかえり、大樹。小豆が帰ってこないんだが、どうした?」


お伽噺に出てきそうな銀髪金眼の美少女が、僕の家のソファに優雅に腰掛けていた。彼女がただ存在するだけで見慣れた部屋がまるで西洋の宮殿に見えるのだから不思議だ。
彼女がシャルロッテ・バッハシュタイン。幼馴染四人組のリーダーであった人だ。


「ただいま、シャル。小豆は友達の家に泊まるって」

「……では、もしかして二人きりか?」
「……まぁ、そうだね」

「それは少し不味いか……?」
「はは……」


僕も同じことを思っていたので、苦笑で答えるしかなかった。
シャルも小豆がいると思って気軽に訪ねてきたのだろう。小豆がいてくれれば僕だって普段どおりでいられる。きっとシャルもそうだったはずだ。

「……帰るかい、シャル?」
「…………」

シャルは顎に手を置いて考え込む仕草を取った。そういうさりげない所作一つが研ぎ澄まされたように美しかった。

「……いや、いい機会だ。大樹とは一度じっくり話し合いと思っていたからな。だが、大樹が迷惑なら帰る。私はこれからもずっと大樹とは良き友でありたいからな」

金色の双眸が真っ直ぐに僕を貫く。
いつだってシャルの瞳は曇りなく、真っ直ぐで、美しい。
だから、僕はそういう彼女の部分に惹かれていた。

「良き友か……」

「あぁ、私は恋人を裏切れない」
「僕も親友は裏切れないな」

……何というか、少し説明が必要だろう。気は進まないけど。
僕と小豆と朝人とシャルの四人は仲良しの幼馴染だった。その関係は中学の時に少しだけ変化した。朝人とシャルが付き合うようになり、幼馴染四人組の中に恋人が出来てしまった。

長く一緒にいる男女の幼馴染が想い合うなんて、どこにでもあるような話だ。僕は男女の友情は肯定派だけど、それでも友情ではなく愛情が芽生えてしまうことも否定はしない。

実際、僕だってそうだった。
……僕の初恋は、シャルだった。

その想いはすでに彼女に告白してある。そこから色々と紆余曲折があって、シャルは結局朝人を選んだ。別にそれに不満は……無い訳じゃないけど、認めている。朝人はいい奴だし、朝人だったら諦めもついた。

朝人は昔からずっとシャルを好きだった。
多分、僕よりもずっと真っ直ぐにシャルを想っていた。
だから、僕は誰にも気付かれないよう気持ちを隠してきた。この気持ちのせいで四人の関係を壊してしまうのが怖かったから、絶対に気付かれないように注意してきた。

あっ、でも、一度だけ朝人に疑われたことがある。朝人に胸倉を掴まれたのは、あの時が初めてだったかな……。

僕とシャルが付き合っていたら、多分四人の関係は壊れたと思う。だから、こうして四人仲良しのままでいられた結末に満足している部分もあった。


「……私はお前の告白に返事をしていない」
「あの時の驚いた顔は結構傑作だったね」

「し、失礼だな! 女の顔に対して傑作だなんて!」

「いやだって、いつもキリッとしてて僕達のリーダーだった君が狼狽える姿なんて滅多に見れないレアモノだったし。当時はいっぱいいっぱいだったけど、今思い出したら結構面白い物見たなって」

「私は乙女だ。告白されれば恥じらって当然だ」


と、男前な感じで胸を張るシャル。
敢えて説明するまでもないと思うけど、シャルは女子にモテるタイプだ。お姉さまと崇拝する後輩もたくさんいた。で、その後輩に朝人が闇打ちされていた。

「まぁ、そういう愉快な戯言は置いといて、お茶でも用意するからちょっと待っててよ」

「ゆ、愉快な戯言!? お前、私に対してはいつも厳しくないか!? 小豆や朝人には甘いくせに!!」

「だって、君は『お姉ちゃん』だったからね。『弟』が生意気なことを言うくらいいいじゃないか」

「全く、ウチの長男は……」

いつも四人の先頭にいるシャルが一番上のお姉さん。次に僕が長男、朝人が次男、一番下の末っ子は当然小豆だ。厄介な弟と妹の面倒を見てきた僕が唯一ワガママに甘えられたのはお姉ちゃんだけだった。

「じゃあ、ちょっと待ってて」
「……わかった」

そうして僕は一度リビングから逃げ出した。
お茶なんて言い訳だ。本当はあの場にいられなかっただけだ。
今更告白の答えなんて聞きたいとは思わなかった。どういう答えであっても、僕は多分簡単に受け止められない。少しだけ心の準備が必要だった。

キッチンに行って、シャル専用の紅茶を用意する。
シャルは紅茶には五月蠅い。ティーパックの紅茶を出すとキレる。普段は頼りになる長女様だが、紅茶に関する苦情はキレた小豆より厄介だった。小豆のローキックは悶絶だけで済むが、シャルのハイキックは確実に意識が飛ぶ。あれに耐えられるのは朝人くらいだ。

と、そんな馬鹿なことを考えている間にお湯が沸騰してしまった。
しっかりとボコボコ言っている熱湯をティーカップに注ぐ。キーマンの茶葉が丸型ポットの中でジャンピングをしていることを確認し、僕は砂時計を引っ繰り返した。

サラサラ……。
砂時計の砂がゆっくりと落ちていく。
この小さな瓶の中には三分という時間が凝縮されている。

それをじっと見ながら僕は思う。
三分って意外とあっという間だ、と。

「行くか……」

紅茶と茶菓子を持ってリビングに戻る。
ふわりと薔薇のような匂いが鼻孔をくすぐるが、今の僕はその香りを楽しむ余裕はなかった。結局、心の準備なんて出来なかった。
再びシャルの前に戻り、彼女の正面のソファに腰掛けた。

「いい香りだな……。私はこの香りが好きだ……」
「う、うん……」

不覚にも『好き』という言葉に動揺してしまった。僕は赤い顔を隠すように俯きながら紅茶を啜った。

「……大樹、当時の気持ちを正直に話す」
「うん、わかった。もう逃げない」

僕は赤い顔のまま、シャルの真っ直ぐな視線を受け止めた。
妖艶な魔力を秘めた金色の双眸。愚直なまでのシャルの性格を何よりも体現した力強い瞳。それが今、僕だけを映していた。



「私はお前が好きだった」
「……ッ!?」



多分、今の僕はあの日のシャル以上に傑作な顔になっているだろう。
湯気が出そうなほど顔中が熱かった。真っ赤に焼けているのではないかと思うくらいだ。いっそ本当に焼けてしまえば、ここから逃げ出せただろうか。

だけど、シャルからは逃げられない。
シャルはいつだってそうだった。
僕が逃げ出した時は絶対に追ってきた。お前は間違っているぞ、と僕の弱い気持ちを叩き伏せた。シャルみたいに真っ直ぐになりたいと思ったから今の僕はある。


「そ、それはどういう意味で……?」

「一人の異性として、だ」


やっぱり、簡単に受け止められなかった。
本当に呆れるくらいに真っ直ぐだ、彼女は。むしろ、好きじゃなかったって言ってくれた方がよかった。


「私が前だけを向いて走ることが出来たのは、お前が後ろにいてくれたからだ。お前の優しさがあったから、私は真っ直ぐでいられた。
 だから、私の秘密を最初に打ち明けたのはお前だった。大樹に支えてほしかったから、私はあの秘密をお前だけに教えた」

「シャルの秘密か。あれは確かに驚いた。というか、すぐには信じられなかったよ……」

「それでも、お前は受け入れてくれた。お前ならきっと受け入れてくれると信じていたが、あの秘密を打ち明ける時ほど恐怖したことはなかった。あの頃、私が一番怖かったのはお前に拒絶されることだった。お前にだけは嫌われたくなかった。私にとっての初恋はお前だったと思う。今にして思えば、あれは恋に臆病だった私の告白みたいなものだった」


……それはさすがに気付かなかった。
というより、あの衝撃の内容を理解することで手一杯だった。

ちなみに、シャルの秘密を話すと混乱を招きそうだから割愛する。
少々突飛な話だし、ここで語るようなことでもない。シャルが恋愛に臆病だった理由とか、今一緒の高校に通えない理由とかに関係するけど、別の機会にゆっくり話そう。


「……お前は私の秘密を知ってもなお好きだと言ってくれて嬉しかった。それは紛れもない私の当時の気持ちだった。……だけど、私は憶病だった。逃げ出したんだ、私は。あんなに惨めな気持ちになったのは初めてだった……」

「シャル……」


金色の瞳から一筋の涙が零れていた。
僕は彼女に手を伸ばそうとしたが、途中でその手を下した。
彼女の涙を拭う資格は僕にはない。それを許されているのは、きっと朝人だけだ。


「すまない、大樹……。あの日、逃げてしまった私を許してほしい……。今まで、告白の返事が出来なかった私を許してほしい……」


もし、僕が告白した時、シャルが逃げていなければ……。
今、シャルの隣にいるのは朝人ではなく、僕だったのだろう。
それはきっと幸せなことだと思う。好きな人と想いが通じ合うということは、きっと天にも昇るくらいに幸せなことだろう。

でも、僕達が付き合っていたら、朝人は泣いただろう。
朝人とシャルが付き合うと知った時、僕が泣いたように……。
だけど、きっと朝人も僕達を祝福してくれたと思う。泣いて、涙が枯れるまで泣き尽して、それでも無理して笑って祝福してくれたと思う。
……僕は泣いたことを悟られないようにするのが大変だったけど、朝人は隠し事が下手だから、大泣きしたことはすぐわかる。

有り得たかもしれない一つの未来。
それを夢想して、僕は瞳を閉じた。


「……初恋って難しいね」


たった一つの選択で、未来は全く違った形になっていた。
両想いだった僕達は今、それぞれ違う道を歩んでいた。


「臆病だったのは僕もだ。あの時、シャルを追い掛けていれば、結果は変わっていたかもしれない。シャルの事情を考えれば、恋愛に臆病になるのもわかる。
 僕は追い掛けられなかった。でも、朝人は追い掛けた。その違いが未来を変えたんだ」

「大樹……」
「シャル……。僕は改めて思い知ったよ……」


あぁ、本当に悔しいくらいに……。


「この世で一番シャルを好きなのは、間違いなく朝人だよ。
 好きな相手が逃げたなら、どこまで追うべきだった。でも、僕はそれをせずに諦めた。その想いの差があったから、今があるんだ。
 だから……、シャルが謝る必要なんてないんだ。むしろ、あそこで走りだせなかった僕の半端さを罵ってほしいくらいだよ」

「それは違う! お前は半端なんかじゃなかった! あの時、しっかりとお前の気持ちは伝わった! 私はただ、それを受け止めきれず逃げた臆病者だ!」

「じゃあ、二人して臆病者だったんだ。馬鹿だな、僕達……」
「……そうだな、本当に馬鹿だ……」


見つめ合うことが出来ず、僕達の視線は自ずとティーカップに向かっていた。すでに湯気は出ておらず、すっかり冷めきっているようだった。

やっぱり、僕達は馬鹿だな……。
せっかく美味しく淹れたのに、最高の味わいを逃してしまった。
この紅茶を温め直しても、元の味わいに戻ることはない。失ってしまった時はもう戻せないのだ。


「シャル、今日はウチでご飯食べていくかい?」
「いや、遠慮しておく……。もうお暇するよ……」

「そうか。じゃあ、玄関まで送るね」


僕達はそれ以上何も語らず、沈黙したままリビングを出て玄関まで歩いていく。

それはとても短い時間。一分にも満たない短い時間だ。
しかし、僕達にはそれが永遠とも思える長い沈黙だった。これほど重苦しい沈黙が二人の間に流れたのは、これが初めてかもしれない。

シャルは赤い靴を履き、銀髪を翻して振り返った。


「……大樹」
「……何?」

「今日、お前と話せてよかった。長い間、つかえていた気持ちをようやく吐き出すことが出来た。……こんなことを言うとお前は気分を悪くするかもしれないけど、言わせてほしい。……ありがとう、大樹」

「こちらこそ、ありがとう……」


何故かわからないけど、僕もシャルにありがとうと言っていた。
それを聞いてシャルは少しだけ困ったように苦笑した。


「……これからも、私の良き友でいてくれるか?」
「あぁ、もちろん。僕達は最高の友達だ」


感謝の気持ちを込めて、僕はシャルに右手を差し出した。
シャルは少し驚いたような表情を浮かべ、やがてはにかむ笑みを浮かべて僕の手を取った。

永遠の友情を誓う握手だった。
僕達はこれからも最高の友人であり続けるという契り。


「私は幸せ者だ。君という最高の友人を持てて……」
「それは僕の台詞だよ……」


そっと手を離す。
シャルは再び銀の髪を翻して、僕に背を向けた。
そして、彼女は振り返らずに扉に手を掛けた。


「さようなら、愛した人よ……」


僕はシャルに何も言葉を返せなかった。
パタンと閉じた扉が、僕に何も言うなと告げているようだったから。
泣きそうになったけど、涙は零れなかった。すでに失恋の涙は枯れつくしている。あの日、朝人に負けた日に、僕はもう泣き尽していた。だから、もう涙なんて出るはずがなかった。

さようなら、愛した人……。
いつの間にか、僕の気持ちは想い出に変わっていたのだ……。
だから、僕は泣かずに済んだのだろう……。

過ぎ去った想い出の鎖はもう断ち切られた。
もうお互いに過去に囚われることはないだろう。次会う時は、最高の友人として向きあえるだろう。僕も……、シャルも……。

しばらくその場に立ち尽くした僕は、やがて踵を返してリビングに戻った。


「今日のご飯、カップ麺でいいかな……」


とても夕食を作る気力なんて湧きそうになかった。非常時の食料として常備してあるカップ麺に、お湯を入れて砂時計を引っ繰り返した。

サラサラ……。
砂時計の砂がゆっくりと落ちていく。
この小さな瓶の中には三分という時間が凝縮されている。

それをじっと見ながら僕は思う。
三分って意外と長いのだ、と。




To be continued...



あとがき

幼馴染最後の一人シャルさんが本編初登場。
で、なんかとんでもない話がww

大きな樹の下での方では、
シャルの話はほとんど出ませんね。
特に、秘密とやらにはノータッチです。

後日の更新予定の別小説でメインに出てきます。
そっちでは本人の登場率より、誰かに名前を呼ばれる方が
圧倒的に多い朝人がメインになるはずですw



↑で言ってた別小説です。
第一話で「秘密」が出てきます。四行目です。

・陽だまりの中で 第一話「Moonlight」
関連記事
スポンサーサイト
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメント水聖 | URL | 2011-05-30-Mon 23:33 [編集]
あら、なんか切ない。
それにしても大樹くんもてるなあ。可愛い子にばかり。
ちょっと殴りたく・・・いえ、なんでもないです。
新作の予告?
そちらも楽しみです^^
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2011-05-31-Tue 00:25 [編集]
水聖さん、コメントありがとうございます。

振られているので殴らないであげてくださいww
新作のモテ子は、シャルの方です。
トラックバック
TB*URL
<< 2017/04 >>
S M T W T F S
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -


Copyright © 2017 無色の翼、鳥は何処に向かうのか?. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。