作家志望の不定期ブログです。
無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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大きな樹の下で 第十話「夢幻」
2011-05-10-Tue  CATEGORY: 小説:大きな樹の下で
えぇ~……、
多くは語るまいww
本編更新は物凄く久し振りですね。
はい、すみませんでした orz

・第一話「はじまりのはじまり」
・第二話「大きな樹」
・第三話「ワンコの気持ち」
・第四話「タマヒメ」
・第五話「一年八組の愉快な仲間達」
・第六話「君の旋律を聞きたい」
・第七話「はじめてのライバル」
・第八話「着ぐるみ理論」
・第九話「オムライス」



大きな樹の下で
第十話「夢幻」


いつも一人きりだった。
誰かのために演奏しようとすると、いつも失敗する。
本当は誰かに聞いてほしいと思っているのに、いざ人前でピアノを弾こうとすると指が上手く動かない。

私の旋律は、いつも誰かには届かない。
一人なら、いくらでも上手く弾けるのに。
いつも誰かの前だと失敗してしまう。

だから、そんな自分が大嫌いだった。
それなのに、ピアノのことは嫌いになれなくて。
どうしようもないくらいに大好きで、指が折れるほどに演奏していたいと思うほどにずっと一緒にいたくて。私はずっとピアノに縋りついていた。


私はピアノを弾いていてもいいんだよね?
いつも私はピアノにそう問いかける。

一人でピアノを弾いている時に怖くなることがある。一人なら上手く弾ける、それさえも夢幻なのではないかと。いつか一人でピアノを弾いている時でさえ、この指が動かなくなってしまうのではないかと。ピアノからも拒絶されてしまう日が来てしまうのではないかと。

だけど、私は初めて誰かのために演奏をすることが出来た。
私一人しか聞こえない旋律が、初めて誰かに元に届けられた。

大樹君……。
貴方のおかげで私は一人じゃなくなったよ……。
私の旋律は、誰にも見えない夢幻から貴方への愛に変わった……。










高校生活二日目の放課後。
胡桃ちゃんに連れられて、私と大樹君は第二音楽室にいた。
第二音楽室は昔、将来を嘱望されたピアニストのために用意された特別教室で長らく使われていないそうだった。しかし、海外でピアニストデビューしている胡桃ちゃんのため、この第二音楽室を再び使える状態にしてくれたらしい。

胡桃ちゃんのための特別教室。
そんな物を用意してもらえるなんて、やっぱり胡桃ちゃんは凄い。

「今日からここでタマの特訓を行なうわ」
「ふぇ? と、特訓?」

「……特訓って、昨日言ってた珠樹のあがり症をどうにかするって奴かな?」

昨日……?
あっ、昨日の帰りの時のことかな?
下校中、大樹君と胡桃ちゃんは楽しそうに話していたから、その時に……。なんか思い出したら少し怒りたくなってきた。理由はよくわからないけど。

「そうよ、サーモン五郎!」

ビシッと肉球ハンドで大樹君を指差す胡桃ちゃん。
サーモン五郎って誰なのかな? もしかして、大樹君のあだ名?

「…………僕は宇藤大樹だよ。アンチョビの次はサーモン? いくら猫の着ぐるみ着ているからって、魚ネタってのはつまらな……」

「猫パンチ!!」
「ふぎゃ!!」

胡桃ちゃんの必殺技、猫パンチ(右のショートフック)が大樹君に炸裂した。猫の着ぐるみを着ているから威力は半減しているが、胡桃ちゃんのフック系パンチは強力だ。
肉球部分で叩いていたので多分手加減をしていると思うけど、いきなり叩くなんて酷いと思う。

「もうちょっとノリのいい突っ込みを返しなさいよ、ウッディー。小豆や朝人なら高速突っ込みを入れるのに」

「……そういうのは僕の仕事じゃないから」

大樹君は叩かれた頬を擦りながら、恨めしそうに胡桃ちゃんに言葉を返した。

「そうね。今ここにいるのは全員ボケ担当だし」
「失敬な。僕だって突っ込みする時くらいあるよ」

「つまり両刀使いってことね?」
「いや、違うから。君の言っている意味とは違うから」

胡桃ちゃんの言うことは、たまによくわからないことがある。

「まぁ、それはさておき」
「……どうしてこう僕の周りはマイペースなのばっかり……」

「ウッディー、タマのことは全部任せるわ。何としてでもタマのあがり症を克服させなさい。じゃあ、私は小豆がここに来られないよう徹底的に弄り倒し……じゃなくて、一緒に遊びに連れていくわ。じゃあね」

と、早口でまくしたてると胡桃ちゃんは第二音楽室から出ていってしまった。止める間もないほどあっという間の出来事だった。どうして猫の着ぐるみを着ているのに、あれだけ機敏に動けるのだろう。

残された私達は溜め息と苦笑いを浮かべた。胡桃ちゃんには困ったものだと呆れながらも、大樹君と二人きりになれたことは少しだけ嬉しいと思った。

自分でもこの時どうして嬉しいと思ったのかはわからない。だけど、後にして思えば、私はもうこの時から彼に想いを寄せ始めていたのかもしれない。

「小豆、大丈夫かな? …………まぁ、別にいっか。とりあえず珠樹、あがり症克服の特訓してみようか?」

「う、うん!」

あがり症は常々何とかしたいと思っていたので、私は大樹君の申し出に迷いなく頷いた。










「じゃ、じゃじゃじゃ……、じゃあ、やってみるね……」
「珠樹、ガチガチだよ。リラックスリラックス」

ひとまず大樹君の前で一曲披露することになった。
もしかしたら大樹君の前だったらと期待していたのだが、やはり上手くいかなかった。いつもみたいに緊張してしまい、一人なら目を閉じても弾ける曲でミスの連続だった。それから何度か挑戦してみたが、やっぱり上手く弾くことは出来なかった。

失敗、失敗、失敗……。
いつもと同じだ。

大樹君の前でも私は相変わらず駄目なまま……。
何度挑戦しても、一人きりの時みたいに上手く弾けない。
一人なら超絶技巧練習曲だって易々と弾けるのに、誰かが見ていると私は子供の練習曲一つ満足に弾けない。

「うぅ……、駄目だったよ……」
「僕からすれば、今の演奏も充分凄いんだけどね……」

大樹君は優しいから慰めてくれる。
だけど、その慰めは逆に辛い。優しいからこそ痛い。
残酷な優しさの方がよっぽど人を傷付ける。その言葉の意味を思い知らされる。

「でも、明らかにミスしてたってわかったよね?」
「そ、それはまぁ……」

いつもそうだった。
楽譜を読めるようになってから、どんな楽譜でも初見でほとんど弾けた。指が届かなくて物理的に無理だったのもあったけど、それでも一人なら誰に教わることなく弾くことが出来た。

だけど、人前では全てが幻想だったみたいに弾けなくなる。
泡沫が水面に出ると壊れてしまうように、私も人前でピアノに立つと全く駄目になってしまう。

大樹君はつっかえつっかえになっている私の駄目な演奏に文句一つ言わずに付き合ってくれた。胡桃ちゃんにも以前、あがり症克服の特訓を受けさせられたことがあったが、その時の胡桃ちゃんも文句一つ言わなかった。

だけど、だからこそ心苦しくなった。
こんなダメダメな演奏を我慢してもらっていることが恥ずかしいし、なけなしのピアノ弾きとしてプライドも傷付く。

本当の私はもっと弾けるのに。
それを見せられないもどかしさが悔しかった。


「ごめん、大樹君……。やっぱり駄目だよ……」


居た堪れなくなって、私は演奏を止めた。
こんな恥ずかしい演奏を誰かに聞かれるなんてもう嫌だった。

「…………ちょっと休憩しようか、珠樹」

椅子に座っていた大樹君は立ち上がり、第二音楽室の窓を開けて回った。窓から入り込んでくる優しい風が慰めるように頬を撫でるが、それさえ私を惨めにさせる。
今は恥ずかしくて大樹君と顔を合わせられなかった。あんな駄目な演奏を延々と聞かせて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「珠樹、飲み物を買ってくるよ。珠樹はちょっと一人で練習してみたらどうかな?」

「………………うん……」

惨めだな、私って……。
どうせなら上手く弾ける指先だけでなく、私自身も一緒に消えてしまえればいいのに……。

扉が閉まったことを確認し、私は八つ当たり気味に鍵盤を叩いた。もちろん叩いたと言っても、鍵盤を拳で殴り付けたという意味ではない。フォルティッシモに演奏を始めただけだ。


「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」


フランツ・リスト作、パガニーニによる大練習曲を最高速で弾き鳴らす。私の持てる全ての力を使って、もやもやした気持ちを叩きつけるように激しく弾き続けた。

悔しい!
一人なら何でも弾けるのに!
どうして大樹君の前でも弾けないの!

馬鹿!
ピアノの馬鹿!
上手く弾けない指の馬鹿!

もっと早く!
壊れてしまうくらいに激しく!
誰も追い付けないくらいに早く早く早く!

演奏記号なんて知らない!
全部プレスティッシモ(非常に急速に)なんだから!
私一人ならいくらだって早く弾けるんだから!


「はぁ……、はぁ……。私の馬鹿……」


一気に大練習曲の第三番ラ・カンパネラを弾き終えると、私は肩で息をしながら項垂れた。それほど長い曲ではないが、今の感情を全部ぶつける勢いで弾いたので疲れた。
でも、思い切りピアノを弾けて少しだけスッキリした。
俯きながら小さく微笑むと、すぐ近くから拍手が聞こえてきた。


「凄いよ、珠樹。今のが珠樹の全力なんだね。圧倒されちゃったよ」
「た、たたた……、大樹君!?」


大樹君は開けっ放しだった廊下側の窓から私の演奏を覗いていた。凄い勢いでパチパチと拍手をしてくれた。


「ど、どうしてそこに……?」
「さっき飲み物買いに行くって嘘吐いて、珠樹が演奏するのを待ってたんだよ」

「で、でも、私、ピアノ弾いてる時は半径五メートル以内の物音はどんな小さくて耳に入るから、大樹君が近付けば気付かないはずがないよ」

「えっ? 何、その超人スキル? ピアニストってみんなそうなの? ……僕は最初からここにいたから物音は立ててなかったよ?」

思い返してみれば、私は扉が閉まったことしか確認していなかった。それでもう大樹君はいなくなったと思ってピアノを弾き出したのだ。ほんの少し視線を逸らせばそこに大樹君がいたのに、それに気付いていなかった。

大樹君が見ていたのに、私は弾けた。
本当に、私は弾いていたの?
夢幻ではなくて?

「あ、あの、大樹君……」
「何?」

「……今のって本当に私が弾いてた?」

「えっ? うん、もちろん。僕がこの目で見てたよ」
「ほ、本当に……?」

「そうだよ。珠樹の演奏、凄かったよ」

私の旋律は夢幻なんかじゃなかった。泡沫のように消えてしまう幻想ではなく、こうして誰かの元まで届く旋律だった。
大樹君がそれを証明してくれた。

「ふぇ……」

「ふぇ?」
「ふえぇぇぇん!!」

「えっ!? 何!? どうしたの!?」

泣きじゃくる私の元に大樹君が駆け寄ってくる。
いきなり泣き出した私を優しく慰めてくれるけど、私はどうしても涙が止まらなかった。

自分自身でさえ信じられなかった私の演奏。
それを初めて誰かが認めてくれたのが嬉しくて、涙が出るほどに嬉しくて、私は延々と泣き続けた。

大樹君は困惑しながらもずっと私の側にいてくれた。
私が泣き止むまで、ずっと……。

「……落ち着いた、珠樹?」
「ぅう……、ひっく、ひっく……」

私は涙を拭いながら頷いた。

「ごめんね、大樹君……」
「別にいいよ。それより、どうして泣いたの?」

「だって……、私……、自分一人の時は何でも弾けるのに……、いつも人前では上手く弾けなくて……、だから、私の演奏は全部、嘘なんじゃないかって思ってて……、でも、大樹君が私の演奏だって認めてくれて……、うわああああああん!!」

「わ、わかったから。わかったから、泣き止んで、珠樹」

大樹君が子供をあやすように私の頭を撫でた。
温かい彼の温もりが心に染みわたってくる。

ずっとこうしてほしい……。
でも、泣き止まないと大樹君が困ってしまう。名残惜しい気持ちはあったが、私は何とか涙を堪えて泣き止んだ。

「ごめん、迷惑掛けて……」

「迷惑なんて思ってないよ。珠樹と一緒にいるのは楽しいし、あんな凄い演奏が聴けたんだから。もう一発で君のファンになっちゃったよ。……それに、珠樹の泣き顔も可愛かったし」

「……あ、ありがとう、大樹君……」

涙の最後の一滴が瞳から零れ落ちた。
そして、同時に私は恋にも落ちていた。
この人に私の旋律を届けたい。そう想うようになると、不思議と彼の前だけでは緊張しないようになっていた。私は大樹君の前だけではピアノを弾けるようになっていた。




To be continued...



あとがき

大きな樹の下で 第二章の始まりです。
ブログの方は連番になってますが、
この話から第二章突入です。

豆柴のターンからタマヒメのターンです。
……そういえば、本編では珠樹をタマヒメと呼ぶ子が
誰一人いないんですよねwww

十二話辺りから新キャラとか出しましょうか?
(十一話はウッディーと幼馴染Cの話です)

大きな樹の下でに関しては
私自身がキャラ絵を全く描いてないので、
誰かが描いてくれたりすると嬉しいなーって思ってますw
チキンなので誰にも頼めないでいますが。
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