作家志望の不定期ブログです。
無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
スポンサーサイト
-----------  CATEGORY: スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ポンコツ警部と閉ざされた金庫の死体(3)
2010-11-28-Sun  CATEGORY: 閉ざされた金庫の死体
魅惑の生ハムメロン、どんな味……?
っていうか、なんか家で作るのはもう負けな気がするww

・ポンコツ警部と閉ざされた金庫の死体(1)
・ポンコツ警部と閉ざされた金庫の死体(2)
・ポンコツ手帳(閉ざされた金庫の死体)1ページ目
・川蝉庵の碑文



ポンコツ警部と
閉ざされた金庫の死体



さて、前回は俺達がいる場所について詳しく説明してなかったな。というより、そもそも俺自身が川蝉庵の話を聞いていなかったら説明も出来なかったのだが……。

現在、俺達は川蝉庵一階客室、歩の五号室にいる。
この部屋は俺に割り当てられた客室らしい。さすがは金持ちの屋敷と納得したくなるような格式高い印象を与える部屋だった。多少古臭い洋館のイメージを与える部屋だが、それでもサイドテーブル一つとっても凝った意匠が彫られた高級品のようだった。


「生ハムメロン、美味ぇな」


豪華なランチと追加で作ってもらった生ハムメロンを頂き、俺はとにかく上機嫌になった。

「先輩、食事が終わったら、雨が降り出す前に川蝉庵を案内しますよ。一緒に川蝉庵の碑文の謎解きをしましょう」

「碑文? 何の話だ?」
「先輩の鳥頭っぷりには呆れるばかりですよ、もう!!」

「悪い悪い、冗談だ。それで、碑文とやらはどんな物なんだ? 俺はまだ内容も聞いてないぞ」



最後の生ハムメロンを呑み込み、憤慨しているポンコツに尋ねた。
偏屈ミステリーマニアな前当主が残した川蝉庵の碑文。その謎を解き明かした者に家督と全財産を譲ると、前当主は生前から明言しており、なおかつ遺言状にも同様の内容が記されていたそうだ。

碑文を解き明かした者に全財産を譲ると言っても、親族には一定の遺産が保証されている。しかし、本来の遺産分配で得られる量と比べれば大分減ってしまうだろう。
藤堂家の遺産は膨大だ。遺産分配による問題も相当ドロドロした者になるだろう。藤堂静香がわざわざポンコツを頼るのも無理はないだろう。出来ることなら、俺だってこんな面倒事に巻き込まれたくはないのだが、一応上司であるポンコツの安全やらを考えると退くに退けなかった。


「そういえば、そうでしたね。じゃあ、実物を見に行きましょうか?」
「じゃあ、胡散臭い屋敷の探索と行くか」

「う、胡散臭いって言わないでくださいよ……」


という訳で俺達は客室を出て、川蝉庵の探索に出た。
最初は面倒なことこの上ないと思っていたが、いざ動き出してみると意外と興奮していることに気付いた。いかにも探偵小説らしいシチュエーションを楽しんでいるのだろうか。実際、碑文を解けば胡散臭い金持ち一族の全財産を得られるというのは夢のある話だし、何気に俺もミステリーは好きだからな。だからといって、この場所に連れてきたポンコツに感謝するようなことは絶対にしない。

前述したが、今俺達がいた場所は一階客室、歩の五号室だ。客室は一階奥の廊下に一列に並んでおり、俺の五号室はちょうど真ん中に位置していた。俺の両隣はポンコツシスターズの部屋らしい。
五号室から他の場所へ出るためには、一号室正面にある通路か、九号室正面にある通路を通り、エントランスホールに出る必要がある。まぁ、廊下には窓もあるので、窓をぶち破って出ることは可能だろうが、それをする必要性は皆無だった。
ちなみに、この時は一号室側の通路を通ったが、基本的にどちらの通路も同じ造りになっていた。この両通路を通っていくと、エントランスホールに繋がる扉にぶつかる。

エントランスホールも怪しげな洋館のイメージを現実化させたような本格的な造りだった。絵画はともかく西洋の甲冑まで並んでいて、正直不気味だった。


「あら? キューコに猪井君?」
「あっ、お姉ちゃん?」
「睦美……」


エントランスホールで新開睦美と再会し、俺は眉をひそめた。
すでに紹介したと思うが、このムカつくポニーテール女はポンコツの姉だ。有能なジャーナリストだが、性格と行動に非常に難あり。怪しげなハンカチで人を眠らせて、孤島に連れ去るなんて問題行動を起こしている。

「おい! 俺を昏倒させたハンカチはどうした? 没収だ」

「えっ? 何のこと? 私、そんなの持っていないわよ? 何の証拠もなく人を疑うのはよくないわよ?」

「じゃかしい! 被害者の目の前でよくそんなことが言えるな!」
「だって、あのハンカチ捨てちゃったもん。証拠抹消?」

「こ、この野郎……」

どうせ問い詰めても無駄なので、俺はそこで追及を諦めた。だが、このクソアマにはまだ言ってやらないことが山ほどあった。

「まぁ、ハンカチのことはいい。だが、それよりよくも騙してくれやがったな。何が親友の誕生パーティだ? 胡散臭い華麗なる一族の遺産問題に巻き込みやがって」

すっかり忘れていたが、最初に睦美はそんなことを言っていた。まぁ、別にそれに誘われた訳ではなく、それで油断させられて睡眠薬入りのハンカチを食らわされたのだが。

「今日は名目的には静香の誕生パーティよ? ただ、遺産の方はあんな遺言書が出ているせいか未だにゴタゴタしているし、正直、とても和やかな誕生会ムードじゃないのよね」

「あァ? そうなのか?」
「ひぃぃ!?」

普通に話しかけられて怯えられるのは、……まぁこの人相のせいで多少は慣れているが、やっぱり地味に傷付くものがある。


「ったく、金持ちってのは誕生日もろくに祝えねぇのか?」
「私達はちゃんと祝ってあげましょうね、先輩」

「まぁ、飯の分の義理は果たすさ」
「……意外にいい人?」


意外とは何だ、と怒鳴りそうになるが、何とか堪える。あまり怖がらせても悪いからな。

「ねぇ、キューコ達は猪井君を連れて川蝉庵の案内? 私も一緒に行っていい?」

「はい、もちろんですよ」
「うげぇ……」

ポンコツは快諾するが、俺は露骨に嫌な顔をする。
市井の家系が俺の周囲に一人増えると、不快指数が倍加どころか累乗増加する。というか、ポンコツ一人ですでに飽和状態だ。これ以上増えるのは勘弁だった。


「よし。じゃあ、川蝉の間に行きましょうか?」










川蝉の間。
この胡散臭い屋敷の大広間の別称だ。
川蝉の間は大広間という割には、それほどの広さは感じられない。壁際には古臭く手値打ちのわからない骨董品が幾つも並んでいて、あまりパッとしない展示室のような感じだった。
部屋の左奥の方には、ちょっと変わった形をしているグランドピアノが鎮座していた。パーティや演奏会など使用する物だろうか。

「先輩にはこの部屋の値打ちは何一つわからないでしょうね~」
「……あァ?」

一発小突いてやろうと思ったが、ひとまず解説を聞いた後にしよう。

「この川蝉の間にあるのは、全て翡翠を使った骨董品です。翡翠は古代中国などで貴重がられ、古くは『玉』とも呼ばれていました。不老不死の効果もあるなんて言われたこともあるくらいで、金以上の値打ちがあったくらいです。ここにある翡翠の骨董品は歴史的にも大変貴重なものばかりで、古代中国の歴史ここにありって感じの凄い部屋なんです。メイド・イン・チャイナ万歳です」

「最後の一言のせいで安っぽくなったぞ」
「それに、見てください、あのグランドピアノを」

俺の突っ込みは無視された。ポンコツの分際で舐めた真似を。この解説が終わったら殴ってやる。

「戦前のベヒシュタインのグランドピアノなんて早々にお目に掛かれるものじゃありません。現在のグランドピアノというと、スタインウェイの設計を元にした物がほとんどですが、やはり音質に関してはベヒシュタインに勝るものはありません。ベヒシュタインは戦争で工場や職人が失われてしまい、戦後は……」

どうにも話がズレてきたので適当に聞き流す。
要は凄いピアノということだ。普通のグランドピアノと形が違うのは古いせいか。


「で、肝心の碑文とやらはどこだ?」
「あっ、それは……」

「って、先輩! 私の話をスルーしないでください! 放置プレーは耐えられません! むしろ、厳しい突っ込みを入れてください! 私はMなんです! 激しいのがいいんです!」

「やかましい! そんなこと言われて突っ込めるか!」


このポンコツ……、今サラッととんでもないカミングアウトしやがったな。前々から怪しいとは思っていが、真正のドMだったのか。

これから殴る頻度を減らすか……。
……んっ? まさか、俺にそう思わせる罠か?
くっ……、俺はどうすべきだ?

「あの……、碑文はこちらです」
「んっ? あぁ……」

騒ぐポンコツを無視して、静香が指差す碑文に目を向けた。
グランドピアノの反対側の壁に、薄緑色の石碑が異様な雰囲気で鎮座していた。石碑というより、薄緑色の石板と言った方が正しいだろうか。石板の縁は黄金の装飾が為され、台座は黒曜石だろうか。
石碑には、以下のように記されていた。



  旅人よ、秘宝を求めるのならば玉の間への旅路を進め。
  玉の間へ続く旅路に礼節を欠いてはならない。
  旅路を歩むなら、汝の矛を納めて進め。

  正しき道を進めば、いずれ冠を戴く王者と出会うだろう。
  旅人よ、王の背後に潜む二人の従者を見つけ出し、
  愚かな王と従者を八つ裂きにせよ。
  新たな時代を切り開くには、
  汝が手にした犠牲者達の骸が必要となるだろう。

  新時代と旧時代に生き残りし者こそが、
  玉の間に続く道を知っている。
  生き残りし者の隠れ家に向かい、
  全ての時代が終わりに全てを殺せ。



一読しただけでは意味不明な文面だった。正直、こういう謎解きで役に立てる気はしない。だが、ポンコツだけに任せるのは癪なので、俺はメモに碑文の内容を移すことにした。

碑文のメモを取りながら俺は思考を巡らせた。
まず、最初に一読した時に感じたのは第一パラグラムと第二第三パラグラムの印象の違いだ。第一パラグラムでは『礼節を欠いてはならない』『汝の矛を納めて進め』と比較的に穏便なことを書いてあるが、第二第三パラグラムでは『八つ裂き』『犠牲者達の骸』『殺せ』などと物騒な内容になっている。
おそらく碑文を段落分けしていることには何かの意味があると思う。だから、それぞれのパラグラムに差異が生じるのだろう。

今思いつくのは、これくらいか……?
多分、この碑文の謎を解くにはまだ情報が足りない気がする。とりあえず、ポンコツの話を聞いてみるか。


「これがポンコツも解けない謎か」
「解けますよ!! 絶対に解きますから!!」


ポンコツは癇癪を起した子供みたいな顔で言い張った。頭脳労働担当のポンコツにとって、謎が解けないと言うのは相当なフラストレーションになっているようだ。あまりこのネタで弄ると本当に機嫌が悪くなりそうだった。

「で、先輩はどう感じました?」
「第一パラグラムと第二第三パラグラムの印象の違いくらいだな。矛を納めろって言ったそばから、いきなり八つ裂きやら殺せやら出てきたり物騒極まりない」

「もうこれは殺人事件が起きるフラグね。きっと見立て殺人」
「不謹慎なことを言うな、睦美」

「多分、文字遊び、アナグラムか何かだと思います。いくらお祖父様でも本当に人を殺さないといけない仕掛けなんて造らないと思いますし」

「当たり前だ。んなことあって堪るか」
「ひぃぃ……」

いい加減、勘弁してほしいんだが……。
話し掛けるたびにこれでは正直やってられない。

「まぁ、他にも『八つ裂き』や『殺せ』ってのは、何かの仕掛けの解除方法を示唆しているのかもしれませんね。『骸』ってのも、仕掛けに関連している可能性もありますし。ただ、これは仕掛けとやらを見つけないと話になりませんが」

「っていうか、仕掛けがあるかどうか自体、わかんねーけどな。とりあえず、この『玉の間』ってのを目指せばいいのか?」


俺は碑文の文言を指差しながら、そう言った。
碑文の中に出てくる『玉の間』というのが、おそらく遺産の隠し場所のことだろう。碑文中にも『玉の間』を目指すように示唆してあり、なおかつこの碑文の謎を解けば藤堂家の全財産が得られる。つまり、『玉の間』にある秘宝とやらが藤堂前当主の遺産のことだろう。
まぁ、まだ断定は出来ないか……。この『玉の間』という言葉に何か他の意味がある可能性もある。


「ですね」
「で、目指すって言ってもどうすりゃいいんだ? さすがにこれだけじゃ何の意味もわかんねぇぞ? 『玉の間』って何だ? さすがにそんな安直に名前付けられた部屋なんてねぇだろ? 玉……? タマ? ……猫か?」

「タマと言って最初に猫が出てくる先輩の発想が大好きです」
「やかましいわ! あと、玉というと、宝石って意味もなかったか?」

「玉石混合の玉ですね。この四字熟語自体は良い物と悪い物が入り混じっている状態を指すんですが、この言葉で使われる玉石とは元々、宝石として玉と無価値な石ころを指しています。で、更に言いますと、ここでの玉という宝石とは、おもに翡翠を指しています」



「翡翠……?」



俺は改めて川蝉の間を見渡した。
正直パッとしない古臭い骨董品の数々。これらは全てが翡翠によって作られた物とポンコツは言っていた。まさか、『玉の間』ってのは『川蝉の間』を指しているのか?

……そんな安直なことがあっていいのか、オイ?


「多分、今先輩が安直に想像したように、この部屋に秘宝……すなわち前当主の遺産が隠されている可能性はゼロです。すでに親族が隈なく調査して何もないと判明していますから。私もいろいろ見て回りましたが、めぼしい物はあの柱時計くらいしかありませんでした」

「……柱時計?」


確か、入口真正面の壁に大きな柱時計があったことを思い出す。一見、金持ちの家にあっても不思議ではない普通の柱時計に見えたが、ポンコツにとって何か不審な点があったのだろうか。


「先輩はまだ屋敷の全貌を見てないから気付かないと思いますが、この川蝉庵には川蝉の意匠が彫られている場所がほとんどないんです」

「そうなのか?」
「は、はい。お屋敷にはアーチと柱時計以外、川蝉のレリーフがある場所はありません」

俺の疑問に答えてくれたのは静香だった。屋敷のことに関してはポンコツより彼女の方が詳しいだろう。

「そもそも、お祖父様はこのお屋敷を川蝉庵とは名付けていないんです。実際、お祖父様がこのお屋敷を川蝉庵と呼ぶことは一度もありませんでした」

「……じゃあ、どうして川蝉庵って名前が付いた?」

なるべく脅かさないように優しい声色を使ってみた。すると、ポンコツが微妙な顔をして気味悪がった。後で殴ってやる。

「それは、アーチや柱時計を見てもらえればわかると思います」
「どの辺りを見ればいいんだ?」

パッと見た限り、川蝉をモチーフにした柱時計にしか見えない。それ以外の特徴を上げろと言われても、特にめぼしい物は見当たらなかった。時計部分と振り子の間に何やら英語の一文があるが、生憎俺には読めない。

「先輩って英語弱いですね。ほら、この一文を見てください」
呆れ気味のポンコツが柱時計の英語の一文を指差しながら言った。



『Welcome to a Kingfisher Hermitage』



「どういう意味だ?」
「直訳すると、川蝉庵にようこそ、です。っていうか、これくらいの英語は読めてくださいよ」

「ウェルカムくらいはわかったっての! 川蝉なんて英単語なんて知るかよ!」

「ちなみに、正門アーチには『Kingfisher Hermitage』って書かれているのよ。まぁ、猪井君がそこを潜った時はグースカ眠ってたんだけどね」

グースカ眠ってたのは誰のせいだ、誰の!?

「はい、そうです。私達親族はこれらのレリーフからいつしかこの屋敷を川蝉庵と呼ぶようになったんです。この碑文も私達は『川蝉庵の碑文』と呼んではいますが、生前のお祖父様は一度としてそう呼んだことはありません」

「なるほど、何か意味深な感じだな」

「先輩、川蝉って実はもう一つ別の書き方があるって知ってます? 翡翠と書いてカワセミと読むんです。そして、翡翠の古い言い方は玉です。さすがにここまで揃うと、この部屋に何かを感じるな、というは無理な話です」

「川蝉……、翡翠……、玉……」


俺は気になる単語を口にしながら思考を巡らせる。そして、無意識のうちに柱時計の一文に触れる。

すると、呆気なく文字部分が外れてしまった。

本当にポロリと『a』という字が抜けてしまった。その文字が地面に落ちる寸前、慌ててキャッチするが、……これは接着でくっつければ誤魔化せるだろうか?


「あぁ~、先輩壊しましたね!? それ、いくらするか知っているんですか? 私は接着剤で付けて誤魔化そうとする不正は許しませんから。ふふふ、先輩はこれで借金人生決定ですね。何千万という負債を抱えて、毎日借金取りから『金返せや、コラー』と言われて泣き続ける毎日です。これも毎日私をポンポン殴っている罰が当たったんですよ」

「ぐぉぉぉ……、や、やっちまった……」


……お、俺はこれから借金人生なのか?
こ、こんな……、こんな古臭い柱時計のせいで俺の人生が……。ただでさえ、安月給のボロアパート住まいだってのに……。
この柱時計、修理費どれくらい掛かるんだろうな……? 俺の薄給何年分くらいだ……?


「あ、あの……、その字の部分、元々外れるようになっているんですけど……? っていうか、キューちゃんは知ってるよね。最初にそれに触った時、猪井さんと全く同じことしたんだから?」


「あァ……? 何だと!?」
「「ひぃぃ!?」」

「ポンコツがァァァ!! ぶち殺すぞォォォッ!!」
「「きゃああああああ!!」」


悲鳴が一つ多い気がするが、別に俺は何も悪くない。勝手に怯えている奴が一名いるだけだ。今はポンコツが二度と軽口が叩けないようにボコボコにしてやることが最優先事項だった。










ポンコツを完全に機能停止させ、俺は川蝉の間から退室した。
碑文を解くためにはまだ絶対的に情報が不足している。前当主の遺産は確実にこの島にあり、この島や屋敷のことを熟知していなければ辿り着けない。そのため、動かないポンコツを放置し、天気が崩れる前に孤島内を散策することになった。

喧しい睦美もポンコツの面倒をみると言うことで川蝉の間に残ったので、案内は静香一人だった。……非常に不安だ。

この孤島は川蝉庵以外の人工物は、港と庭園だけだった。
洋式庭園というと、薔薇のような美麗な花によって彩られたイメージがあったが、川蝉庵の庭園は基本的に緑一色だった。緻密な設計によって張り巡らされた生垣と水路が、絶妙なコントラストを描いていた。


「生前、お祖父様はよくこの公園を散歩して、日がな一日を過ごすことが多かったそうです」

「まぁ、いい場所だからな……」


正直、あまり会話は弾まない。
俺はぶっきらぼうでポンコツみたいに延々と喋るタイプではないし、静香は完全に俺を怖がっていた。だが、静香は俺のことを怖がりながらも、しっかりと庭園の説明をしてくれた。面倒見のいい奴なのだろう。

庭園にある主な施設は、噴水と四つの東屋だった。
『夏鳥の噴水』と命名された優美な噴水の周囲には幾つもの彫刻があり、その季節でもっとも美しい花々に彩られる。
更に庭園の四隅にある四つの東屋にもそれぞれ名前があり、『英雄の亭』『騎士の亭』『隠者の亭』『魔術師の亭』と名付けられていた。海側には『英雄の亭』『騎士の亭』、屋敷側には『隠者の亭』『魔術師の亭』が配置されていた。


「この噴水周辺は凄いな」


西洋の観光地に出てきそうな美麗な彫刻に囲まれた噴水を眺め、俺は思わず感嘆の息を漏らした。全体的には質素な造りの庭園だが、この噴水周辺だけは別世界のように彩り豊かだった。

「はい、お祖父様も庭園の中でここをこよなく愛してました。よくお祖母様が生きていたら、見せてあげたいと仰っていました」

「……祖母さんはこの川蝉庵が出来る前に亡くなったのか?」
「はい。桂馬叔父様を生んですぐに……」

桂馬叔父様とやらが誰かは知らんが、おそらく親族の一人だろう。ということは遺産問題に絡んでくる奴の一人か。

「お前、前当主とは親しかったのか?」
「親しかった……というか、私は両親を早くに事故で亡くしたので、お祖父様に育てていただいたんです。だから、私にとってお祖父様は一番一緒の時間を過ごした家族なんですよ」

「お前みたいな奴が面倒臭い遺産問題に絡むのはそういう理由か?」

「……そうですね。それもありますが、私もお祖父様に育てられたせいかミステリ大好きっ子なので、単純にこういう碑文の謎解きに興味があるんです。やっぱり、あの碑文を解くには川蝉の間に重要なヒントがあるんでしょうか? それとも、将棋と何か関係があるんでしょうか?」

目をキラキラして語るところをみると、マニア特有のアレを感じる。探偵小説の舞台そのままのような屋敷を造り上げるようなマニアに育てられたのだから、そのマニアっぷりが感染しても仕方がないだろう。
どうもこのネタを振ると、ある意味でポンコツの壊れたラジオみたいなクソトークより厄介なことになりそうだ。あっちは殴って止められるしな。

だが、今何か気になることを言ったな。
……将棋だって?

「将棋と碑文に何か関係があるのか?」

「はい。まず川蝉庵のほとんどの部屋が将棋の駒に因んだ名前になっています。猪井さんのお部屋も歩の五号室、将棋の歩兵から来ています」

「そういえば、確かに変な名前だと思っていたが、将棋の駒から来ていたのか」

「それに、この将棋の駒に因んだ部屋、通称駒部屋の扉上部の目立たない場所に、意味深な数字が刻まれています。おそらく碑文の謎解きに必要な数字だと思われます。これが部屋と数字の一覧です」


静香は懐から手帳を取り出し、ページを開いた状態で俺に手渡した。
随分と使い込まれている手帳のようで、静香が碑文の謎解きに少なくない時間を使っているのが窺えた。どこぞのポンコツと違って非常に字が綺麗で読みやすかった。

王将の間『20』
左金の間『1』
右金の間『4』
左銀の間『7』
右銀の間『14』
左桂の間『3』
右桂の間『8』
左香の間『13』
右香の間『17』
角行の間『12』
飛車の間『9』
歩の五号室『15』
歩の六号室『2』
歩の四号室『11』
歩の七号室『10』
歩の三号室『16』
歩の八号室『6』
歩の二号室『19』
歩の九号室『5』
歩の一号室『18』


以上が駒部屋と謎の数字の対応表だった。軽く見た感じでは特に規則性のあるような数字には見えなかった。

「……これは大橋流の並べ方か?」
「はい」

大橋流というのは今主流となっている駒の配置順だ。最初に王将を置き、その王将の左、右、左、右と順番に並べていく。他にも伊藤流という並べ方がある。伊藤流というのは桂馬を並べるまで同じなので、そちらの並び方にしても規則は見出せなかった。

そういえば、玉と言って連想できる物として『玉将』もあるな。下位者、つまり後手が使用する駒だ。基本的に王将と同じ働きをする。
だが、あの時ポンコツが特に話題に出さなかったってことは、玉将は外れか? それとも、何か考えがあって口にしなかったのか、単純に言い忘れていたのか。……何にせよ、『玉将』か。ひとまず気に留めておくか。

「今までいろんな順番で並べて見たんですけど、規則性らしい物は見つかりませんでした。そもそもこの数字が何を示す物なのかもわかっていません。多分、『玉の間に続く旅路』に関係するような気がするんですけど、確証はありませんし」

「……ポンコツは何て言っていた?」

「碑文はおそらく言葉遊びの可能性があるので、二十文字の言葉を探してみるのがいいって言ってました。でも、二十字となるとなかなか見つかりません……」


静香は大きく溜め息を吐いた。
確かに二十文字ってのは少々長い。なかなかピッタリ合うような文字列なんて簡単に目の付く場所には置かないだろう。どこかに隠してあるのだろうか。いや、それとも意外な形で提示してあると考えた方がいいだろう。


「あいつがそう言っているなら間違いねぇな。だったら、二十文字の言葉ってのを探すぞ。とにかく屋敷や庭園にある文章を手当たり次第、案内してくれ」

「…………」
「あァ? どうした?」

「ひぅ……。あっ、いえ……、キューちゃんのことをいろいろ言ってた割には、信頼しているんだなーって思いまして……。キューちゃんも猪井さんのことを信頼しているみたいだし、傍目からはわかり辛い信頼関係があるんですね?」

「………ちっ、いいからさっさと案内しろ」


俺は軽く舌打ちをして静香に背を向ける。
やはり、この女と二人だと非常に居心地が悪い。さっきまでビビってくせに、今は俺にとって面倒臭そうな話を振りたくてウズウズしているようだった。

これだから女って奴は面倒なんだ……。
俺は溜め息を吐きながら、これからされるであろう質問をどう答えるか頭を悩ませることになった。








あとがき

やっとこさ本編に碑文を出せましたww
これで碑文謎解きが出来るようになってきました。
まだ一部情報が出てませんが、基本的に問題編に
出てくる情報だけで解けるようになってます。

あとでポンコツ手帳もちょちょと更新する予定です。
関連記事
スポンサーサイト
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメントゆさ | URL | 2010-11-28-Sun 23:41 [編集]
こんばんはー☆

お姉ちゃん、猪井さんのこと「猪井君」って呼ぶんだ…!!
何か、キュンときてしまいました(笑)。

碑文、猪井さんが感じたのと同じで、わたしも一読しただけじゃまったくわからないです(^ ^;)。
ちょっと、じっくり読んで考えてきます!
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2010-11-29-Mon 00:00 [編集]
ゆささん、コメントありがとうございます。

主役二人は、先輩&ポンコツと呼び合ってて
名前があまり出ないですからねw

碑文、簡単に解けないように頑張って作りました。
謎解きに挑戦してくれると凄い嬉しいです(=^・^=)
トラックバック
TB*URL
<< 2017/08 >>
S M T W T F S
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -


Copyright © 2017 無色の翼、鳥は何処に向かうのか?. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。