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無色の翼、鳥は何処に向かうのか?
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ヘブンズ・ゲート ~精神の終焉~ [第4話]
2010-10-26-Tue  CATEGORY: 小説:ヘブンズ・ゲート
さてさて、
今回も逸樹のターンですw
でも、ちゃんと東雲さんも出ますよ。

二人のキャラの確立は終わったので、
次回辺りはバチバチと危険な雰囲気を出していきたいです。

にしても、東雲さんといっちゃん、
どっちも悪い奴ですね~。
っていうか、どっちが好きですかね、この二人。
まぁ、どちらもお友達にはしたくないタイプですがwww

・[第0話]
・[第1話]
・[第2話]
・[第3話]



ヘブンズ・ゲート ~精神の終焉~


風城市中央区歓楽街バベル・グラウンド。
金と欲望が混沌と渦巻き、人々を呼び寄せる奈落の闇。
天を穿つ巨塔をイメージして建造されたバベル・タワーの下に広がる不夜城。古代都市バビロンを彷彿させる神も恐れぬ歓楽街は、風城市都市化計画によって生み出された最大の成果だった。

元々は多少の賑わいがある程度の街だった。駅前には大手デパートが一軒あるだけで、他は雑居ビルや商店街が軒を連ねていた。繁華街は風俗やスナックなどが多かったが、それでもネオンのような電飾が満ちていたとは言い難かった。

それが今では都心の繁華街にも匹敵するほどの歓楽街へと変わっていた。もはや夜闇は欲望に満ちた光によって貪り食われ、永遠に蠢き続ける無限機関と化した。数年でこれほどの変革を行うには、一体どれほどの金が動いたのだろうか。


風城市は取り立てて大きな産業もなく、日本のどこにでもあるような何の変哲もない街だった。強いて挙げるならば、暴力団の勢力が強い街であった。

広域指定暴力団統仁会直系六代目城山組が古く拠点としており、風城市の歓楽街は今も昔も彼等のテリトリーだった。

風城市の麻薬の売買は当然、古くから城山組の領分であった。しかし、急激な都市化による市場拡大は、彼等の手に余りあるものだった。その結果として外国人グループに風城市の麻薬市場を荒らされることを許してしまった。

無論、城山組にも街を取り仕切っていた面子があり、シャバを荒らした外国人グループを容認できるはずがなかった。ヤクザと外国人グループとの間で抗争が起こり、一時街が騒然となった時期があった。しかし、外国人グループは素早く和解金を払うことによってこの抗争を手打ちとした。そして、シャバ代と上納金を払うことによって、今後も風城市で商売が出来るようにした。

風城市は予想を遥かに超えて巨大化した。もはや城山組だけで支配することは難しくなっていた。勢力が強かったのは、あの小さな街だった頃の話だ。今では彼等さえちっぽけな存在になっていた。

しかし、断っておくが、彼等が軽んじられる存在ではあるはずがない。非合法な暴力を振るう者の脅威は恐ろしい。歓楽街バベル・グラウンドの主要な施設はほとんど城山組に押さえられていた。そして、彼等の手の行き届かない暗い場所には、外国人グループが網を張っていた。


今、佐渡逸樹が歩いている場所はそんな不夜城の真っ只中だった。


少年は街の光景に自然に溶け込んでいた。ふざけたグルグル眼鏡を掛けていればさぞや目立っただろうが、今の彼はあの目立つ眼鏡をかけておらず、恰好も比較的に普通の若者のように整えていた。

人の印象は目で決まると言う。
まして逸樹の場合、あのふざけた眼鏡が目立ち過ぎるために印象の全てが眼鏡に向かってしまう。逸樹がただ眼鏡を外すだけで、彼の印象は一変してしまう。

ボサボサだった髪も少しだけ手入れをし、無造作ヘアーと呼べる風体となっていた。服装は繁華街にいる若者達が好みそうな黒革のレザージャケット、ビンテージ物のダメージジーンズ。歩くたびにガチャガチャと五月蠅い音が出るくらいに安物のシルバーアクセサリーで着飾っていた。もはやどこから見ても普通の若者だった。
それでも何故か目立っていたのは、眼鏡の下に隠れていた逸樹の眉目が人並み以上に整っていたからだろう。

女性達の視線を幾つか受けながら、逸樹は颯爽とある場所を目指していた。

風城市最大のクラブ、ナイトサーヴァント。

夜遊びをする若者達が集う場所であり、風城市だけではなく近隣の街から訪れる者も多かった。イベントサークルが競い合うように連日イベントを開催しており、とても集客効果の高いハコだった。
今日はイベントが行われてない日であったが、それでも若者達は依存症に囚われたようにナイトサーヴァントを訪れる。

逸樹はごく当たり前のようにナイトサーヴァントに溶け込んだ。

彼の視線の先には、長谷川達が監視されていることも知らずに馬鹿笑いをしていた。長谷川達のような若者がナイトサーヴァントにたむろしていることは決して珍しくない。長谷川以外にも静林学園の生徒達が何人もいた。そして、この場にいるのはあまり素行のよろしくない者達が多かった。

逸樹が確認した限り、ブラッドを所持している者はほとんどがナイトサーヴァントの常連だった。


(……一体、何なのかね、ブラッドってのは?)


風城市に蔓延し始めた悪魔のクスリ。
ドラッグは人が人足り得る根幹を揺るがす。静かに忍び寄るブラッドの脅威は、着実に街の治安を崩壊させていた。人間が築き上げてきた社会性を破壊し、獣としての野蛮性を曝け出していった。

特にブラッドの影響が顕著なのが若者達だった。

ブラッドはアッパー系のドラッグに分類されるようで気分を激しく高揚させ、特に人間の攻撃性を高める。元々未成熟で精神の安定しない子供達がこのドラッグの影響で更に不安定になっていく。

不安定な精神状況。
傲慢な気分と攻撃性の増加。
ドラッグ購入のための弱者への恐喝行為。

風城市という小さな世界の秩序は徐々に狂い始めていた。

ドラッグによって国家そのものが転覆の危機にあった事例はある。十九世紀の清国は、イギリスが当時植民地であったインドで栽培したあへんを密輸入され、国内の治安は収拾がつかないほどに悪化した。また、あへんの輸入によって清国内の銀が多く流出する結果となり、経済的にも大打撃を受けた。

その後、清国のあへん取締り強化によってイギリスとの貿易に軋轢が生じ、阿片戦争が勃発することとなった。そうした経緯から中国は現在でも麻薬取締には厳しく、最高刑は死刑だった。

あへんは紀元前から存在を確認される非常に古い麻薬の一種で、ケシから生産される麻薬だった。この植物からは他にもモルヒネ、ヘロインなど依存性と中毒性の強いドラッグを作られた。日本ではあへん法という法律により、あへんの輸入販売や所持譲渡の禁止、ケシ栽培などが規制されている。

ケシの栽培といっても、ケシから麻薬成分を抽出するには大量のケシが必要となる。大麻のようにベランダで栽培したとして、麻薬として使用できる量を生産することは不可能である。
また、大量のケシを用意できたとしても、ケシから生産できるのは毒性の弱いあへんのみ。より強力なモルヒネ、ヘロインを生産するためには化学的な工程を経る必要がある。

原始的な麻薬でさえ一つの国を滅亡寸前にまで追いやった。
果たして、現代麻薬の最高峰ヘロインと同等の力のある赤き悪魔のクスリにはどれほどのことが出来るだろうか。

風城市のような小さな地域など簡単に滅ぼしてしまうかもしれない。
そんな馬鹿な想像をして、逸樹は軽く頭を振るった。


(滅ぼすなら、もっと簡単な方がいくらでもある。ブラッドの目的はその強烈な依存性を使った支配。わざわざブラッドなんて独自ブランドを生み出したのも、強制力を強めるのが目的かな?)


高品質なブランドには購買者に対して一種の強制力を持つ。絶大な信頼はまるで依存症のようにブランドに引き寄せる魔力となる。

ブラッドには下地となる伝説があり、なおかつ評判に違わない絶大な効果があった。噂という幻想から姿を現したブラッドには、実質的な効果以上の評判が与えられていた。一種のマーケティング戦略が成功したかのように、ブラッドはその信奉者を着実に増やしていた。

麻薬そのものの依存に加えて、ブランドに対する依存。
ブラッドの強制力は相当なものとなるだろう。


(無関係な人間を巻き込んで何をしようとしているんだろう? ……まぁ、僕が気にしても仕方がないか。考えるのは僕の仕事じゃない)


果てなき思考の旅路に飽きた逸樹は意識を現実に向けた。
長谷川が見慣れない男と話していた。学校では見かけない男だ。まだ若いが、奇妙な貫禄を感じる長髪の男だった。発する雰囲気から二十代後半くらいだろう、と逸樹は察した。

(あの男が売人か?)

しばらく観察していたが、おそらく違う気がした。
頭の悪そうな話が続いているだけで、どちらも周囲に全く警戒していなかった。ドラッグを扱う隠語も特に聞こえなかった。

数分後、長髪の男は去っていった。
そのまま彼がクラブを出て行くところまで確認し、逸樹は再び長谷川に視線を戻した。

どうやらナンパをしているようだが、相手が悪かったらしく簡単にあしらわれていた。
不夜城の一角であるナイトサーヴァントの中には誘われることを待つ女達もいるだろうが、彼女達の眼は意外なほどに肥えている。いや、女性だからこそ人を見る目があると言ってもいい。長谷川のような小物を相手にすることがいかに時間の浪費かをよく知っているのだろう。女達はしつこく声を掛けてくる長谷川に罵詈雑言を浴びせて、さっさとその場を去ってしまった。

それから長谷川を観察するが、特に得られる物は何一つなかった。逸樹はそろそろ諦めて帰るか、と考え始めていた。

しかし、そこに予想外の大物が現れた。


(……あれは、伊崎か?)


六代目城山組組長伊崎の一人息子、伊崎誠。

この男には様々な顔がある。ヤクザ組長の一人息子。近年風城市で猛威を振るっているギャング、ディアボロの副ヘッド。ナイトサーヴァントを中心にして活動をする巨大なイベントサークル、蛇の主催者。城山組の舎弟企業である城山興業の影のブレーン。
伊崎は風城市において二番目に有名な若者だ。野心に溢れ、才能に恵まれ、闇の権力を生まれながらに持つ者。

そんな人物がわざわざ長谷川に声を掛ける理由が見当たらなかった。

長谷川は静林学園付属校の中においては、それなりの実力者だ。元々スポーツ万能であり、一度はバスケットボールで輝かしい栄光を勝ち得た人物であった。学内の素行不良な生徒達の中心人物と言ってもいい。
だが、それだけだ。闇の歓楽街バベル・グラウンドからすれば、長谷川など取るに足らないガキの一人に過ぎない。

逸樹の意識は視界の向こうに傾きつつあった。
だから、今まさに彼自身に接近しつつあった存在に気付くのに遅れた。


「何しているの、佐渡?」
「……どうして僕だって気付いたのかな、まゆみん?」


気付けば、すぐ隣まで柊木真由美が来ていた。

完璧に油断していた、と逸樹は内心で苦笑した。どうにも逸樹は周囲に対する配慮が足りなかった。それは逸樹にとって幾度となく危機を呼びこんだ欠点であったが、彼は全くそれを改めようとしなかった。
多少ピンチになった方が面白い、というのが彼の言い訳だった。しかし、実際のところは単純に面倒臭いだけだった。

真由美は当然、彼の心情など気付くはずがなかった。だから、当たり前のように彼の質問に答えるだけだった。


「何言ってるのよ? 眼鏡外したって、佐渡は佐渡でしょ?」


今の逸樹逸樹を、静林学園付属中学三年一組のグルグル眼鏡と同一人物と認識できる人物が一体どれほどいるだろうか。
少なくても、長谷川達は彼が間近に寄っても全く気付かなかった。長谷川達だけではない。夜遊びをしているクラスメイトの真横を通り過ぎたことさえあったが、気付いた者は誰一人いなかった。

人は視覚情報に左右され、感情によって物事を記憶する。相手の容姿に対する印象は強く残り、それを感情として記憶する。特に目、目元付近は強く印象を与え、なおかつ感情を伝えやすい。
学校でのふざけた格好を悪印象としてインプットした人間にとって、今の逸樹はもはや別人としか映らないはずだった。

そう仕向けるため、あんなふざけた恰好をしていたのだ。

逸樹は常に自分を偽って生きていた。
自分の中に巣食う醜い本質を覆い隠すために、嘘に嘘を重ねて誰にも自分の本性を気付かれないようにしてきた。そうしなければ、彼はきっと世界中のほとんどの人から拒絶されるだろうから。

だが、一方で誰か自分のことを知ってほしいと思っていた。
そんな自己矛盾を抱える逸樹にとって、さも当然のように逸樹の深い部分に踏み込む少女の存在が眩しかった。


「……まゆみんのそういうとこ好き」
「また変な冗談ばっかり。いい加減慣れてきたわ」

「初々しい反応が見れなくて寂しいなぁ……。でも、そんなまゆみんの初々しさを奪ってやったのが僕だと思うと、またそんな擦れた反応もいいもんだね」

「ホントあぁ言えばこう言う奴ね!」
「あっと、あまり大声は止めてね~」
「ふががぁぁ~」


怒り出しそうな真由美の口を閉じ、逸樹は立ち位置を変えた。長谷川達から真由美の姿が見えないようにするためだ。

あんな小物がゲームの全容を知るはずもないだろうが、彼等の側にいる伊崎には注意が必要だった。口を塞がれて抵抗する真由美を抱えて、逸樹はなるべく静かにその場を移動した。
そして、長谷川達から充分に離れたところでようやく真由美を解放した。

「あんたって奴はもう本当に!!」
「うっひゃっひゃっひゃ~♪ 怒りたいのはこっちなんだけどね~。もう本当に人の邪魔ばっかりして」

「邪魔? 何のことよ?」

「まぁ、君のその純粋さが好きなんだけどね~。っていうか、どうしてこんなところにいるのさ? まゆみんって夜遊びするようなキャラだっけ?」

「違うけど、偶然繁華街に向かう佐渡の姿が見えたから気になって追いかけただけよ」

「ストーカー?」

真由美は逸樹の不愉快な発言に腹を立て、零距離から強烈なアッパーを放った。しかし、例の如く逸樹はそれをあっさり受け止められた。

彼女が逸樹を追ったのは、最近特に治安の悪くなった繁華街に繰り出す逸樹を心配しての行動だった。この飄々とした大馬鹿野郎は本当に何を仕出かすかわかったものではないので、何かあったら助けに入ろうと思っていたのだ。

けれど、そんな心配など必要なかったと真由美は思い知らされた。


「あんたって奴は……」
「心配してくれたんでしょ、ありがとう。まゆみんのそういうところ好きだよ?」

「ぅっ……、別に逸樹の心配なんて……」


呼び方が苗字から名前に変わっていることに気付いたが、逸樹はそのことには触れずに別の話題を切り出した。


「王様や君の姉さんから僕のことを聞いたっていうのに、どうしてまだ僕に構うんだい、まゆみん?」

「な、何でそれを……!?」
「そう仕向けたからね。この間の体育館の一件で」

「あんた、本当に食えない奴ね!」

「本当のことを知れば、もう僕に近付かないと思ったんだけどね? 君はそれでも僕を心配してくれたんだ? 嬉しいよ、まゆみん。そんな君の優しさに感謝感激雨あられだね~」


彼にしてみれば、未だ真由美が心配してくれるなんて発想はなかった。とっくに怯え恐れて、二度と逸樹に近付かないと思っていた。

真実の逸樹の姿を知れば、誰も彼に近付くはずがない。逸樹はそのことを誰よりも痛感していたから、真由美が彼について調べるように仕向けた。逸樹の正体を知っている者から、それとなく真由美に伝えくれ、と頼むことも出来たが、彼はそれをしなかった。

体育館での一件は他にも目的があった。真由美がゲームに深入りしないように忠告だ。他の者から散々釘を刺されていただろうが、真由美は決して聞き入れようとしなかったので、少しきつめに言い聞かせる必要があったのだ。

だが、一番の目的は真由美との最後の戯れ合いを楽しみたかった。
最後だと思ったから、真由美の味をしっかり味わいたかった。


「でも、迷惑だよ。関わるなとも言ったね。骨の二、三本でも折って行動不能にしないとわからないのかにゃ~?」


逸樹の瞳に冗談の色はなかった。
口調こそいつものようにふざけているが、その瞳には佐渡逸樹の本質の一端を映されていた。残酷で冷徹な鬼の本性が。

やれるものならやってみろ、と言われれば本気で折っても構わなかった。むしろ、それくらいをしないと真由美を止められない気がしていた。

しかし、真由美は挑発に乗らず、珍しく素直に謝った。


「……ごめん」
「…………」

「心配だったの……。気になったの……」


言葉ではとても短かったが、今彼女の中に渦巻いている想いはとても一言では表せられないものだった。
今、風城市で起きようとしている現実に対して真由美は何も出来ない。何も出来ないからこそ、何かをせずにはいられなかった。心配とか、気になるとか、そんな感情がどうして止まらなかった。

真由美はじっと逸樹を見つめる。
彼女が心配する人達の中には当然、彼も含まれていた。佐渡逸樹の正体を知り、恐れ怯えながらも、柊木真由美の気持ち自体に大きな変化は起きなかった。

彼の正体や本質、それが一体何だと言うのだ。確かにそれは恐れるに値するモノだろう。だが、それでも真由美が見抜いた逸樹の本当の心は、恐れるようなモノではなかった。


「心配しちゃ駄目なの、あんたのこと?」
「……あまり可愛いことを言うなよ、真由美」


思わず素の口調が零れていた。
その理由を敢えて言葉にするなら、食指が動いたからだ。

もうほとんど抱き合っているのと同じような状態だったが、それでも逸樹は暴力的に真由美を抱き寄せる。ただ欲望の赴くままに強引な抱き方だった。当然真由美は痛みに呻き、激しく抵抗する。だが、それを押さえつけて無理矢理に抱き締め、彼女の細い首筋に顔を埋めた。
服の隙間から舌を這わせ、鋭利な牙を真由美の柔らかい首筋に軽く立てた。血が滲む寸前くらいの力だ。

それは男女が愛を確かめ合うような甘い行為ではなかった。捕食者が獲物の喉笛に食らいつく光景に似ていた。


「そんなことを言うと、君を殺したくなるだろ……?」










企業戦略事業とは、人殺しの覚悟がなければ務まらない。
かつて俺の上司が口にした言葉だった。

企業戦略とはすなわち企業が有する莫大な資金をいかにして使用するかの方針を決定付けるものだ。もっと正確に言うならば、いかにして弱者から金を貪り食らうかを決めることだ。
経営に綺麗事など存在しない。弱肉強食こそが真理だった。弱り目を見せた者から食われ、強者の血となり肉となるのだ。

人の生涯賃金は二億と言われている。だが、企業戦略事業の指示一つによって人の生涯賃金以上の資金が毎日のように流動する。それは金の流れであり、人の人生の流れでもあった。
膨大な金の流れに呑み込まれて、倒産する企業など幾らでもある。その結果として生活の拠り所を失い、人生を転落する者もいる。文字どおりに首を括って自殺する者もいるだろう。

つまり、企業戦略事業の指示一つで幾つもの人生が潰えていくのだ。故に我々は人殺しの覚悟を持つ必要がある。弱者を踏み躙り、その全てを搾取して殺すことを容認しなければいけない。

理解しろ、俺達は人殺しだ。
隙を見せた馬鹿達を殺し、その屍を貪ることで生きている。
だから、悪いのは隙を見せたお前だ。

それが今でも覚えている上司の言葉だった。

その言葉はそっくりそのまま返してやる。まぁ、薬漬けになった廃人に何を言っても無駄だろうが……。さて、死体の処分はどうしたものかな……? 面倒だし、適当に腐らせておくか。


ブラッドの効果はまさに絶大だった。


人間を破滅させるクスリ、これを使えばどんな人間だって堕ちる。それだけの力が麻薬にはあるのだ。人間の本質を壊し、破滅させる力。一度これに触れてしまえば、もう絶対に後戻りは出来ない。

特に自分は絶対に大丈夫と息巻いている奴ほど簡単に堕ちるのだ。勇敢と無謀を履き違えた馬鹿など、向こうから勝手に近付いて何もしないうちに勝手に堕ちていく。馬鹿の典型だな。

ちょっと唆して一発やらせれば、あとは簡単に堕ちていく。
飼い慣らしたメスを使って、かつての上司にブラッドを一服盛ってやった。女の色香にホイホイと釣られてきた馬鹿は、ブラッドの快楽……、そして強烈な禁断症状によって、簡単にブラッドの虜になった。

ブラッドの特性は、MDMAというよりも覚せい剤に近かった。快楽や禁断症状という点ではヘロインに近いが、ケシ植物から作られる薬物(あへん、モルヒネ、ヘロイン等)はダウナー系と呼ばれ、気分を落とす効果がある。ブラッドはその逆で精神を異常なまで高揚させるアッパー系に分類される。アッパー系は覚せい剤やコカイン等が代表的だ。

恨み募るかつての上司殿には通常使用では有り得ないくらいの量のブラッドをキメさせてやった。一度に大量の薬物を投与され、脳の中身をグチャグチャにされた人間は、もう二度とクスリなしの生活には戻れない。思考を司る脳そのものを壊されたのだから当然の結果だろう。

こうして従順なクスリの奴隷の出来上がり、あとは奴隷から更に奴隷を作っていく簡単な作業だった。そして、俺がかつて勤めていた会社は、すでに俺の指示一つでどうとでもなる状態になった。一つの腐ったミカンが会社中枢まで腐らせたのだ。企業戦略事業部サマサマという奴だ。

だが、ゲームとやらの制約があるために会社内の人間全てを落とすという訳にはいかない。あくまで風城市に住まう者だけを狙わなければいけない。そのために、会社はブラッド蔓延の舞台とはならない。

バベル・グラウンドに訪れる大人達を薬漬けにするためには、まず素性を調べる必要がある。なおかつ、理性と社会的地位を併せ持った大人を落とすのはそれなりに労力が掛かる。
ほとんどの場合、女をけしかけてやれば落とせる。だが、それには割と時間が掛かるし、何より効率が悪い。素性を調べなければいけないという制約も邪魔している。


狙うのは、ガキ達だ。


地域というコミュニティに縛られたガキ達は、ブラッドの販売対象に適していた。むしろ、ゲームのルールは学校関係者にクスリを蔓延させろ、と言っているようだった。

学校関係者ならば、ほとんどの場合で市内在住の者であり、なおかつ学校自体に管理されているために名簿作成も非常に容易だった。素性もわからない連中にいちいち尋問しながら売るよりよほど効率的だった。

ブラッドの販売は俺が直接売り捌くのではなく、純真無垢なガキ達を使っている。もちろん直接顔を合わせたりはしない。連絡は常にメールだ。しかも、そのメールは国外のフリーメールを何重に噛ませたモノで、警察が本腰で調査しなければバレないものだ。
ついでに言うと、その素性に行きついたとしても、その人物はすでに死んでいる。公的な証明書の類は実に便利なので、なくさないように心掛けた方がいい。

純真無垢なガキを詐術で言い包めるなど造作もないことだ。奴等はまだ騙されることに慣れていない。野心とプライドだけが無駄に高い馬鹿達ばかりだ。最初は姿さえ見せない俺に不審がっていたが、今では盲目的に俺に従っている。

中でも優秀なのは、伊崎誠だった。
あのガキの後ろ盾は申し分ない。それに、野心や功名心がある奴ほど、実は操りやすいものだ。ただ、そういう奴はいつ牙を剥いてくるかわからないので、決して油断は出来ないのだが……。

とにかくガキ同士のネットワークを使い、ブラッド蔓延は確実に広がっていた。


「お待たせしました、東雲先輩」
「別に待っていないさ」


凪桜の声が耳に入り、俺の意識は現実に向いた。
彼女の到着は待ち合わせの時間のちょうど十分前。学生時代と変わらず時間には正確だった。


「まさか先輩に食事に誘われるなんて思ってもみなかったです。しかも、奢りだなんて。守銭奴は直ったんですか?」

「言ってくれるな、この野郎……」


だが、凪の言う通り、俺は学生時代から守銭奴だった。奢りなんて絶対しなかったし、割り勘にするにもビタ一文譲らなかった。

今現在も守銭奴が改善した訳ではない。
無駄な金は一切使うつもりはない。凪に奢るのは必要な投資だからだ。金は溜め込めばいいというものではない。見せ金など、見栄のために使わなければいけない金があるのだ。

今でこそブラッドという強力な資金源があるが、それ以前はヤクザ紛いのチンピラだった。詐欺や脅迫と言えば多少恰好もつくが、要は人から金を巻き上げることをしていた。

詐欺などで人を騙して金を毟り取る場合、相手に金を持っていることを見せなければいけない。金を持っていないと悟られてしまえば、どんな上手い話を持っていっても釣れない。身振り羽振りを整え、こいつは金を持っていると思わせ、なおかつこの話に乗れば上手い汁が啜れると感じさせなければいけない。

必要な投資。見せつけるための金。凪の好意と時間を、金で買っているという考えだ。バベル・タワーの高級レストランで食事を奢ってやるくらい安いものだ。


「ふふふ、すみません。今日はお誘い、ありがとうございます」
「最初からそう言ってろ」

「感激です、まさかこんな高級レストランでお食事だなんて。夜景も信じられないくらいに綺麗です。……それで、美味しい食事の後は、私をデザートにする寸法ですか?」

「それもいいな」


というか、最終目標はそれだ。
いや、正確に言うとそれも過程の一つか。
だが、まぁ、一筋縄でいくような奴でもないしな。


「あっさり肯定されちゃいました……。でも、食事一回で食べられちゃうほど私は安くないので、迂闊に手を出さないことを勧めます」

「迂闊に手を出して、全治三ヶ月ってのは俺も勘弁だからな」
「そ、そんな昔の話を出さなくてもいいじゃないですか!」


昔から凪に言い寄る奴は多かった。中には腕自慢の乱暴者が強引に迫ったこともあったが、そういう輩に対して凪は容赦がなかった。柔道部副主将が全治三ヶ月の大怪我を負わされたのは有名な話だった。

凪桜は元々スポーツ特待生として静林学園に入学した。女子剣道部の無敵のエースとして、三年間無敗という伝説を打ち立てていた。素手でも俺より強いだろうな、この女。


「何言っているんだ、昔話に花を咲かせようってことで食事誘ったんだぞ? こんな話なんてまだオードブルにもならない。お前の愉快な伝説はまだまだたくさんあるしな」

「うぅ……、斜め四十五に叩けば先輩の記憶は吹っ飛びますか?」
「物騒だな、おい!」

「だったら今すぐ忘れてくださいよ!」

「まぁ、善処してやる。だから、出来ればもう少し場に合った態度を取ってくれ」

「は、はい……」


こういう普通の会話というのも悪くない……なんて、善人のような感想が出るなんて期待するなよ。

あぁ……、正直反吐が出る……。
絶望を知らない無知蒙昧な連中ほど不愉快なものはない。ただ、幸せであることが許しがたい。理由なんてない。どん底に落とされた者達の苦しみを知らない奴が、当たり前のようにヘラヘラして呼吸しているのがムカつくのだ。

理解できないだろう?
あぁ、誰も理解できるはずがない。

全てを奪われて絶望した奴の気持ちなんて誰もわかるはずがないんだよ。したり顔で正論を言う奴を殺したい。可哀想など同情する奴を八つ裂きにしてやりたい。この平穏に見えた世界のすぐ側に地獄があることを教えてやりたい。

今、当たり前のようにある平穏は、一歩踏み間違えば簡単に壊れてしまう薄氷の上に成り立っている。俺の望みは自分が幸せだと思っている全ての人間にそのことを知らしめてやることだ。

その幸せそうな顔をグチャグチャにしてやらなければ、俺の傷跡は癒えないないだよ……。





Tell the continuance in hell…




あとがき

いっちゃんと東雲さんは実に書きやすいです。
私の本性も「攻撃的」なので、この二人は実にやりやすいです。

あと、まゆみんも書いてて楽しい感じです。
なんというか、弄られ系は報われないのがいいwww
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コメント

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No title
コメント水聖 | URL | 2010-10-27-Wed 01:24 [編集]
いっちゃんってば、イケメンさんだったのね。いかんうっかり惚れそうになってもうた。まゆみんとの悲恋とかツボっぽいですが、やっぱ今のところは東雲さんが好きかなあ。チラ見せじゃなくじっくり彼を見たいです。
Re: No title
コメント遠野秀一 | URL | 2010-10-27-Wed 20:24 [編集]
水聖さん、コメントありがとうございます。

いっちゃんはただのグルグル眼鏡ではないのですよww
東雲さんはまぁ、ボチボチ出てきますよ。
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